2018年6月に始まった規制のサンドボックスは、今後の日本のイノベーションを加速化させるひとつの制度だとして注目を集めています。海外でもサンドボックス制度はありますが、日本の規制のサンドボックスはそれらとの違いがあるといいます。海外事例との違いや想定される産業範囲について、内閣官房 日本経済再生総合事務局(未来投資会議)の参事官・中原裕彦氏にお聞きしました。

身近な悩みがサンドボックス制度を経て実証実験に

内閣官房参事官・中原裕彦氏

−−「規制のサンドボックス制度」について理解をより深めたく思います。この制度は日本だけの制度ですか。海外では同じような事例はありますか?

中原氏:はい。FinTech(フィンテック)の分野においては、シンガポールやイギリスでの先行事例があります。有名な事例としては、シンガポールの保険ベンチャー企業・ポリシーパルが実施した実証実験は、サンドボックス制度を利用した成功事例のひとつだといえます。

ポリシーパルの創始者である女性経営者の事例をお話します。彼女はご両親様がお亡くなりになったときに、その各種保険の加入状況が掌握できず、なかには期限が過ぎていて、支払いを受けることができなかった苦い経験もあったといいます。

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(画像はイメージです 画像=PIXTA)

そこで、自分が加入している保険証券をスマートフォンで読み込めば、人工知能(AI)が分析したうえで管理をして、満期がいつで、それまでに何をしなくてはいけないのか?不足している手続きは何か?というところが一目でわかるようなシステムを作りました。

このほか、ブロックチェーンを活用した送金システムや生体認証を用いた融資(貸付)などの実証も展開されているようです。

諸外国におけるサンドボックスの前例を確認してみると、先ほど説明したシンガポールにせよイギリスにせよ、FinTechに限定されているのが現状です。

FinTechの枠を超え、日本のサンドボックス制度にはあらゆる分野に可能性がある

−−FinTech分野は海外が先行しているようですが、日本のサンドボックス制度は海外の事例とどのような点が異なりますか。また、想定している産業範囲はいかがでしょうか?

中原氏:私たちが進めている「第4次産業革命」の社会実装というのは何も、FinTechに限定するものではありません。

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(画像はイメージです 画像=PIXTA)

未来投資戦略、成長戦略のなかには、もちろんFinTechも含まれていますが、モビリティ、ヘルスケア、あるいは地方創生や不動産取引、社会インフラなどさまざまな観点からの取組があり、このサンドボックス制度についても特に分野を特定しておりません。

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(画像はイメージです 画像=PIXTA)

−−諸外国のように、特定分野からスタートして、段階的に広げていくという考えではないのですね。最初から間口を広げている……受け入れ側として課題はないのでしょうか。

中原氏:実際にサンドボックスの制度を構築する段階で、私たちは諸外国の方々と意見交換を重ねました。彼らがどうしてサンドボックスを実施しようとしているかというと、FinTechで使用されている技術は決してFinTechだけではなく、他分野への広がりが大きいと考えているからです。だからこの分野から素早く着手して、社会実装をしていかなければだめなのだという問題意識があったのですね。

そうならば私たちは最初からFinTech以外の分野も織り込んで社会実装を目指せば良いわけですし、実際にこれまで規制改革にかかわってきた私の経験からしますと、金融だけではなくさまざまな分野でも同じような障壁があることはわかっていました。

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「第4次産業革命」を進めるうえで、どういった法律が適用になるのだろうか?これまでの法制度が想定してこなかった事態が生じて、そこが障壁となることで事業者の皆様がお困りになっているという前例は、あらゆる分野において生じていました。

何もないところから社会的インパクトを立証するのが困難を極めていたのは、身をもって理解していたので、最初から広げておくのがベターであろうと判断しました。規制のサンドボックス制度は、そういった皆様の悩みにできる限りお応えするような制度であるべきだと考えています。

規制のサンドボックス制度が日本人のイノベーティブな能力を発信する一助になってほしい

−−日本は、技術力はあるものの一歩踏み出せなかった、トライできる場がなかったから、ソリューション分野において諸外国から多少の後れを取ってしまったという感覚でしょうか。

中原氏:諸外国を見ていると、特に新興国では、必ずしもルールが整備されておらず、語弊があるかもしれませんが、ルールに縛られていないからこそ新しい発想が生まれ、すぐに実行されるという部分があり、これを強みとさえ言えるかもしれません。

日本の企業は誠実で真面目で、きちんとルールを守ってビジネスを行っています。このこと自体は大切にしなくてはならないことですが、そうした中で如何にイノベーティブなことに対する機会損失が生じないようにするか。私たちが一定の条件下でトライができる場を作るという意義は大きいと思っています。

−−まさに日本の風土にマッチした「イノベーションを生むステージ」ということですね。

内閣官房参事官・中原裕彦氏

中原氏:そうですね。そういった意図があって、あらゆる産業領域に対して広く門戸を開いているというのが日本式サンドボックスの最大の特徴だと思っています。

−−どのような方々にご利用いただきたいですか。

中原氏:ベンチャー企業や中小企業の方たちや、新しいビジネス展開について面白いアイデアをお持ちの方はたくさんいらっしゃると思います。そういった方々にお越しいただきたいと思いますし、あるいは大企業のなかで新規事業やジョイント・ベンチャーを起こす段階においてもご活用いただければと思います。

私もこれまで、産業界のたくさんの方々とお会いしてお話を伺ってきましたが、個人ベースでは、非常に興味深いことを考えていらっしゃる方も多く、「日本人にはイノベーティブな能力がない」という話など、まったくもって違うと感じていました。単にそのアイデアをカタチにして世の中に出していくツールが十分になかったので発信ができなかったということだと考えています。

今回の規制のサンドボックス制度が、その一歩を踏み出すきっかけになればと思っています。机上ではなく実証的かつ実践的なマーケティング活動の一助になるのではないかと考えています。

さまざまなものが新しく変わってきました。過去に日本人の技術者や開発者の皆様がお考えになっていたにもかかわらず、何かしらのしがらみがあって途中で頓挫した製品やサービスが、月日を経て海外で発表され、世界的にもヒット商品となったような事例もあったのではないかと思います。その当時、この規制のサンドボックス制度があったら、現在の状況は大きく変わっていたかもしれません。私たちも、そういったアイデアを早めに世の中に出していけるようにフォローしていきたいと思っています。(提供:お金のキャンパス

中原裕彦(なかはら ひろひこ)
内閣官房 日本経済再生総合事務局 参事官

1991年 東京大学法学部卒業、通商産業省入省、大蔵省証券局総務課、米国コーネル大学 Ph.D.candidate、法務省民事局参事官室、中小企業庁制度改正審議室長、経済産業省知的財産政策室長、内閣府規制改革推進室参事官、経済産業省産業組織課長等を経て2016年から現職。規制のサンドボックス制度の創設に尽力。


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