チームを作る上で大事なこととは?

ある大手企業の営業組織や研究所で、組織内の行動観察プロジェクトを行った時、優れた生産性を出しているチームは1割ほどであった。

しかもそれら優れたチームですら、機能期と呼ばれる段階に達したというよりも、葛藤期の時もあれば、統一期の時もあるといった風にチーム内の状態はめまぐるしく変わっていた。またチームによって特徴や違いは説明できるし、チームごとのカラーの様なものもたくさん観察された。しかし、良いチームを徹底的に分析しても共通項は見出すことはできなかった。

チームの4段階は”ステップ”ではなく”今の状態”と理解した方がわかりやすく、それぞれの状態で必要なことは何か?と考察する様になった。ではその必要なこととは何だろうか?

その解決のヒントは昨年2月にGoogleが発表した生産性向上プロジェクト(プロジェクト・アリストテレス)の成果から読み取ることができる。

ニューヨーク・タイムズのオンライン記事「 What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team 」と現代メディアの記事「 グーグルが突きとめた!社員の「生産性 」を高める唯一の方法はこうだ」では、小林雅一氏が大変含蓄のある分析結果を公開してくれている。

同プロジェクトは、Googleが2012年から開始したプロジェクトで、様々な業務に携わる数百のチームがある中、生産性の高いチームもあれば低いチームもあることに着目し、同じ会社の社員でありながら、なぜ生産性の差が出るのかチームの差を分析し、より生産性の高い働き方を提案することをミッションとしていた。

プロジェクト・アリストテレスの結果はシンプルで、チームづくりにおいて最も重要な要素は「心理的なセーフティネット(Psychological safety)」だというのだ。セーフティネットをチーム内にはりめぐらすことに成功しているチームは、チームの生産性も高いという。

チーム作り,Google,青学
(出所=筆者)

この成果を先述の4段階と組み合わせれば、以下の様に考察することができる。

形成期 チームでOKなことや基本的ルールの可視化(ここにいて大丈夫)
葛藤期 自分の意見を主張しても排除されない空気(これ言って大丈夫)
形成期 相互に共感しあえる部分を持つ(あの人のことをよく知ってる)
機能期 相互影響がプラスに働く関係性(あの人のためにこれをやろう)

チームの様々な状態に応じて必要とされる心理的セーティネットは変わるし、新しいメンバーが加われば、新たに作り上げる心理的セーフティネットも出てくるだろう。つまりチームリーダーの仕事は、今どんな何を構築すればいいかを見極めるのがキモになるはずなのだ。

青学の駅伝チームが語る心理的セーフティネット

青学の駅伝チームは、2015年、2016年連続優勝し、今期については全区間トップで走行し続け、世間をにぎわせ。このチームを牽引したのは、かつては中国電力の営業としてトップセールスだった原晋監督。

駅伝チームの選手や原監督のインタビューは、「走るテクニック」へのコメントが少なく、驚くほど「チームの重要性」に対するコメントが多い。メディアがそれを期待しているからもあるだろうが、それ以上に彼らがチームビルディングについて試行錯誤をしてきたことがうかがえる。

青学の駅伝チームに原監督が就任したのは2004年。陸上部の合宿所には原監督の奥様も住み込んで、選手と24時間共にしながら規則正しい生活を指導している。

選手のコメントの一部はこうだ。

「横はもちろん上下や監督を含めたスタッフとの壁も薄くて風通しがいいチーム。監督が明るいので、おもしろいチームになっていると思います」(久保田和真選手)

「選手の彼女の話もするし、本当に何でも話せる」(藤川拓也選手)

チーム内に心理的セーフティネットができていることがよく分かるコメントだ。また、原監督は青学の駅伝チームが成熟した過程を以下のように説明している。

“第1ステージは私からの一方通行の指示。第2ステージではリーダー制度をつくり、選手自身のリーダーシップを養いました。第3ステージは私が就任してから7~8年目ごろ。私からは答えを出さずに自発性を待つようにした。ティーチングからコーチングへと指導方法が変わったのです。そして現在は第4ステージ。私は選手やコーチらの後ろに構えているだけ。オブラートで包むような形での指導です。これが成熟したチームの姿だと思います。”

(以上出所『著名人から学ぶリーダーシップ「青学陸上部はなぜ強くなったのか、ビジネスマン出身監督の指導論」』- ビズサプリ)

どうしたら青学の駅伝チームの様な職場が作れるのだろうか。チームというのは相互影響の結果であるとすると、チームが機能するというのはいわば化学反応の様な現象であり、チームの良し悪しを数字だけで測ることは難しい。

私たちは、Googleがプロジェクト・アリストテレスで行っている様にチームの良し悪しを見つける有効な方法は、観察とフィードバックだと考えている。

社内でチーム観察を行う際は、ミーティングや飲み会をビデオに撮影して、その翌日チームメンバー全員で見ることをお勧めしたい。チームの中に、発言を頭ごなしに否定する人がいるとか声の大きい人がいるとか、どういった心理的セーフティネットを壊す様な現象があるのかを気づいてみてはどうだろう。もしやり方で困った場合は、私達が「 研修の効果を客観的に評価するための行動観察を利用した効果検証サービス 」を提供しているので、こちらも参考にして欲しい。


高橋広嗣(たかはし・ひろつぐ)
フィンチジャパン代表取締役。早稲田大学大学院修了後、野村総合研究所経営コンサルティング部入社。経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルタントとして活躍。2006年「もうひとつの、商品開発チーム」というスローガンを掲げて、国内では数少ない事業・商品開発に特化したコンサルティング会社『フィンチジャパン』を設立。著書に『半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法』がある。昨年には新たにコンテンツマーケティング事業を立ち上げ、耳×ヘルスケアに特化した自社メディア「 耳福庵 」の運営も行っている。