韓国において、加湿器に使う殺菌剤が原因で1500人超が死傷するという事件が明るみにされ、メディア等で大きく取り上げられている。最大の被害をもたらした殺菌剤を製造・販売した多国籍企業の韓国法人「オキシー・レキット・ベンキーザー」の代表は、2016年4月2日にソウルで記者会見し、謝罪するとともにしかるべき補償を行うことを約束した。
この事件は2011年春にすでに発覚していたもので、関係企業は10種類に及ぶ殺菌剤製品について有害だと認識しながら販売を続け、発覚後に証拠を隠蔽した疑惑さえあるのだという。人命よりも企業利益を優先させたとも捉えられるこの事件は、「家の中のセウォル号事件」とも呼ばれている。
「2016年殺人企業」のランキングとは?
これまでにも韓国では「利益優先」の企業体質がたびたび問題の俎上に上り、その端的な例として、死亡労災事故の多発が取り上げられてきている。そうした中、労働健康連帯や毎日労働ニュース、大手労組の民主労総、韓国労総などで組織する「労災死亡対策制定共同キャンペーン団」が、「2016年殺人企業」のランキングを発表した。
同キャンペーン団がまとめた政府統計に基づく韓国の労災死亡者は、2001年~2014年までの間で3万3902人に上る。労災死亡者数には出退勤時の災害による死者や貨物輸送、バスなど特殊雇用労働者が含まれていないにもかかわらず、年間平均2400人以上の犠牲者が出ていることになるわけだ。
今回のランキングは、2015年中に発生した死亡労災事故件数に基づいている。無論「殺人企業」というのはいささかセンセーショナルに過ぎる呼び名とも思えるが、その背景にある問題の深刻さを考えると、一概に否定することはできないのかもしれない。
ワースト企業は6人の死亡者を出したハンファケミカル
「最悪の殺人企業」と名指しされたのは、韓国化学大手ハンファケミカルだ。同社は2015年7月に蔚山工場で発生した爆発事故で、下請け労働者6人が死亡するという事故を引き起こしている。無資格請負業者に施工を任せていたほか、安全点検も形式ばかりというずさんな作業実態など、300件近くに上る法令違反が判明したにもかかわらず、起訴された工場長は執行猶予で釈放され、法人に対する処罰も日本円にして約142万円という軽微なものとなった。
ランキングの2位には、死亡労災事故で5人が死亡した韓国鉄道公社や、2件の火災事故などで5人が亡くなった大宇造船海洋など、4社が同数で並んでいる。また3位には、KTX工事現場の崩壊事故や、補修工事中の下請け労働者が列車にはねられるなどして4人が亡くなった韓国鉄道施設公団を始め、圧縮空気の代わりに窒素を送り込んで協力会社の労働者3人を含む4人を死亡させた半導体大手のSKハイニックスなど、4社が挙げられている。
同キャンペーン団は声明でハンファケミカルの事例を挙げ、社会的な影響力の大きい財閥企業の労災事故に警鐘を鳴らしている。軽すぎる処分を「労災死亡は企業による構造殺人」だとし、企業や政府官僚に組織的責任を問うための「重大災害の企業処罰法」の必要性を訴えているのだ。