口角を上げるだけで声が心地よく響く
一方、雑談の際には「適度なカジュアルさ」も忘れてはならない、と魚住氏。
「あまりにハキハキ話しては、かえって不自然ですよね。声を出すのは、ボールを投げるようなもの。軽い会話では、軽くボールを投げるべき。大きすぎない声量を心がけましょう」
とはいえ、声量や声のトーンを抑えて話すと、暗い印象を与えることにはならないだろうか。
「そこで大事なのが、常に口角を上げることです。口角を上げると、笑顔になるだけでなく、声も明るくなり、決して沈んだ印象にはなりません。口角を上げると、滑舌もよくなります。舌の位置が上がり、舌の先が口の中で浮いた状態になるので、発音しやすくなるのです。ラ行などはとくに明瞭になりますね。頬の筋肉が鍛えられて、小顔になるのも隠れたメリットです(笑)」
滑舌がよくなることを活かして、さらなる印象アップを図ることもできる。
「1音ずつ丁寧に、最後まで発音することを心がけてください。『ありがとうございました』というひと言を一気に発するのではなく、1音1音を頭に浮かべながら口にすると、感謝の気持ちが明確に伝わります。『承知いたしました』『よろしくお願いいたします』『お疲れさまでした』なども同様です」
魚住氏は普段の生活の中でもあらゆる場面でこれを実践し、その効果を感じている。
「コンビニでお釣りを渡されたときなどに、1音ずつ意識して『ありがとう』と言うと、店員さんの表情がパッと輝きます。すると、店員さんの『ありがとうございました』も、決まり文句ではない、血の通ったものになります。発音1つでコミュニケーションは大きく変わるのだ、と実感させられます」
和やかに雑談をして、場が十分に温まったら、本題に入る。そのタイミングを作るうえでは、上手に緩急をつけるのがコツだという。
「ある敏腕営業マンのお話によると、いざ本題に入るときや、相手に印象づけたい言葉を発するときには、わざと声量を下げて、3秒くらい間を置くそうです。内緒話のように語り出すことで、相手の集中力が上がり、こちらへの注目度が増します。早口で話していたならスピードを落とす、高いトーンで話していたなら低くする、というのもいいですね。こうして声に変化をつけることで場面を切り替えられます」
音読ではなく「朗読」の練習を
以上のことを確実に実践するためには、日頃から小さなトレーニングの習慣を持つことが重要だ。
「最も簡単にできるのは、自分の声を録音することです。スマートフォンのボイスレコーダー機能などを使って、自分の声を録って聞いてみましょう。自分で思っている以上に暗く沈んだ話し方をしているんだな、と気がつくはずです。『えー』『あのー』といった悪い口癖にも気づけるでしょう」
新聞記事などの文章を声に出して読む「朗読」も非常に効果的だという。
「単に文章を音にするだけの音読と違い、朗読は人に聞かせることを意識して読むものです。そのためには、内容を深く理解し、キーワードやキーセンテンスを意識し、強調するポイントを考えながら読むことが必要。どこでトーンを上げるか、どこで間を取るか、といった工夫をしながら読むわけです。朗読を録音して、自分で聞く。これを毎日3分続けるだけで、グッと表現力が上がります」
自分が理想とする声を真似るのも良い方法だ。
「周囲に心地よい声の人がいれば、積極的に会話し、話し方を取り入れてください。
政治家や文化人など、有名人をお手本にするなら、動画サイトで繰り返し映像を視聴しましょう。ワンセンテンスずつリピートするのもいいですが、ただ観るだけでも効果があります。理想の話し方や声を身近に置き、いつでも聞けるようにすることが大切なのです。こうした環境作りは、自然に、そして確実に、声に良い影響をもたらすでしょう」
魚住りえ(うおずみ・りえ)フリーアナウンサー
大阪府生まれ、広島県育ち。1995年、慶應義塾大学卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2004年に独立し、ドキュメンタリー番組『ソロモン流』(テレビ東京系列)のナレーションなど、500本を超える作品に携わる。現在はボイスデザイナー・スピーチデザイナーとして、「魚住式スピーチメソッド」に基づく話し方の指導も行なっている。著書に『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)がある。(取材・構成:林加愛 写真撮影:永井浩)(『
The 21 online
』2016年5月号より)
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