デフレ,経済危機
(写真=PIXTA)

6月1日に安倍首相が消費税率再引き上げを2017年4月から2019年10月への延期することを表明した。安倍首相はこれまで、リーマンショック級の世界経済危機のようなことが起きない限りは延期はないと、明言していた。

よって、5月の日本でのG7では、その発言との整合性を保つため、新興国を中心に停滞を続ける世界経済の現状に対して、前のめりに危機のリスクを強調し、景気回復の促進のため財政政策を機動的に使うという合意を勝ち取った。その合意で、形としては、過去の発言と延期を整合的なものとしたことになる。

内需低迷とデフレの長期化、原因は企業の活動

確かに、現在の状況をリーマンショック級の経済危機のリスクと重ね合わせることには、違和感があると言われてもしかたがない。しかし、資金循環統計を見ると、違和感とだけと言ってはいられないほどの状況になっているリスクも出てきていることには注意が必要だ。

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続し、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだ。

そして、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い、名目GDP比)が消滅していて、マネーが循環・拡大できなかったことが、金融緩和の効果も限定的にし、景気停滞とデフレ、そして円高の問題をより深刻化させたと考えられる。現在、グローバルな景気・マーケットの不安定感への警戒が、企業行動を慎重化(企業貯蓄率の短期的なリバウンド)させてしまっている。

総需要を下押ししているものとは

企業貯蓄率は2010年4-6月期のピークの+10.6%(GDP対比、4QMA)から2014年10-12月期には+2.6%まで低下したが、その後リバウンドし2016年1-3月期には+6.0%となっている。リーマンショックのあった2008年7-9月期は+4.4%であり、それを越えてしまっている。企業のデレバレッジの再発と疑いも出てしまうくらいのリバウンドだ。

そして、消費税率引き上げと歳出の抑制、税収の大幅増加などにより財政が過度に緊縮気味となってしまった。財政収支は2012年4-6月期の-9.5%から2016年1-3月期には-3.5%となり、赤字は三分の一程度になっている。2008年7-9月期の-2.2%近くまで改善し、企業貯蓄率が当時より若干高いことを考えると、財政は同じくらい緊縮になり、総需要を下押してしまっている。

結果として、両者の和であるネットの資金需要は、2015年4-6月期まで17四半期連続のマイナス(マイナスが強い、今回の局面での最大は-3%程度)であったがプラスに転じ、消滅してしまった。そればかりか、プラス幅が拡大(2016年1-3月期は+2.6%)している。2008年7-9月期は+2.1%であり、それを越えてしまっている。

デフレ完全脱却へは財政拡大が急務?

ネットの資金需要は破壊され、マネーが収縮を始めるリスクも生まれてしまっている。確かに、金融機関のバランスシートは健全であり、金融部門を含んだ連鎖的なマネーの収縮のリスクは小さく、全体として見れば経済危機前と同じであるとは言えないだろう。

金融部門の貯蓄率は0%近辺であり、デレバレッジはまったく見られず、とても安定している。しかし、非金融部門のマネーフローを見ると、経済危機前と同じくらいのマネーの収縮が起きている状況にあると言うこともできる。

新興国経済の債務問題やイギリスのEU離脱問題などで、グローバルな景気・マーケットの不安定感が急激に拡大し、金融部門の萎縮が起これば、一気に類似性が見えてきてしまう恐れもある。経済危機前とは似ていないと油断せず、警戒を怠らず、デフレに逆戻りしないために、ネットの資金需要を復活させ、現行の金融緩和の効果をより強くし、マネーの循環・拡大を促進することが必要である。

財政拡大を中心とした、しっかりとした政策対応が急務になってきているのかもしれない。しっかりした政策対応がなされれば、金融部門の問題は小さく、デフレ完全脱却への健全化の方向に速やかに向かうことは可能だろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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