平安保険―フィンテックを4大事業の1つへ
平安保険は、中国の保険業界において、ある意味、先駆者のような存在といっても過言ではないであろう。
最大手の保険会社の多くが国有企業である中、平安保険は民間の保険会社であるが、これまで国による実験的な施策や新たな措置を率先して導入してきた。保険の銀行窓販や、保険会社を中心とした銀行への出資など金融コングロマリットの形成などにおいても、まず平安保険が範となり、安全性や問題点を確認した上で、最大手の国有系の保険会社が順次導入していくというのが通例であった。
平安保険の総合金融会社としての特性や経験、これまでの通例を考えれば、中国のインシュアテックの分野においても、業界をリードする存在になるであろうことに何ら不思議はない。
平安保険は、2015年の総資産が4兆7651億元(およそ87兆円)、収入保険料(生損保合計)は、前年比18.3%増の3860億元(およそ7兆円)で、生保・損保ともに業界第2位を維持する保険グループである(3)。収入保険料を含むグループ全体の売上げは前年比33.9%増の6932億元(およそ13兆円)、営業利益は前年比49.1%増の929億元(およそ2兆円)と、2015年は大幅な増収増益となった。
平安保険は、これまで保険、銀行、投資(証券など)の3事業を収益の柱としてきた。2015年の純利益(652億元)の構成を見ると、保険部門が48.3%(生保:29.1%、損保:19.2%)、銀行部門が32.8%、投資(証券・信託)部門が8.3%、その他が10.6%を占めており、収益の最大の柱は、保険事業である。
平安保険は2016年に入り、これまでの保険、銀行、投資(証券)の3事業に、フィンテックを4本目の事業として正式に加えた(図表1)。平安保険は、これによって、オンラインとオフラインを結ぶ新たなサービス(O2O)の開発や普及など、フィンテック事業を将来における収益の柱の1つとなり得る存在として位置づけたことになる。
平安保険におけるインターネットと金融事業の融合は、この10年ほどの間、試行錯誤を繰り返しながら前進をしてきた。特に、2011年末にP2Pレンディングのスタートアップ企業である陸金所(Lufax)を傘下に設立したあたりから、業務展開が加速している。そういった意味においても、2015年は、フィンテック分野への努力が評価を得た1年といえよう。
例えば、上掲のFintech100において、陸金所は11位に選出されている。陸金所は、ネットを介して資金の貸し借りを結ぶサービスである。平安保険のトップ馬明哲氏によると、2015年末時点で、平安保険のネットユーザー数は2億人を突破、そのうち、陸金所の登録ユーザー数は1831万人で、取引高は1兆6000億元(およそ29兆円)と、取引量では世界第1位となった。
平安保険自身については、イギリスで開催されたFintech Innovation Awards 2016において、保険イノベーション賞にアジアで唯一選ばれている(4)。
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(3)中国平安保険の総資産、収入保険料、営業利益、純利益の出典は2015年の同社の年報である。売上げについての出典は平安保険のウェブサイトである。2015年末時点の数値については、1元=18.3円で換算(2015年12月31日)。
(4)Fintech Innovation Awards 2016:イギリスのデジタルマーケティングの会社であるContensive社が開催し、その年にフィンテック分野で傑出したイノベーション、テクノロジー発展へ貢献した企業について評価を行う。
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今後10年間の戦略―IT×金融×生活サービス
フィンテック分野での世界的な評価を受け、2016年の元旦、馬明哲氏は、今後、平安保険が迎える新たなステージと特に重視する2つの分野について発表をした。
それによると、国の成長戦略の1つである「インターネット+」に則って、平安保険は「インターネット+総合金融」を戦略の柱に据えるとした。既存の保険、銀行、投資事業の成長は維持しつつ、今後の重点は、それらを融合し、更に発展させたフィンテック分野に置くとしたのである。特に重視される分野は、P2Pレンディングなど個人の金融資産の活用(図表2の「資産管理」)と、医療・ヘルスケア分野(図表2の「健康管理」)である。
「インターネット+総合金融」の戦略については、2014年6月時点で大きな枠組みが発表されていた。その後、2015年の1年間をかけて、上掲の2つの重点分野について具体的な検討が進められていたのであろう。2025年までの10年間の目標として、これまでになかった「世界のトップ」を意識した内容が散見され、平安保険は今後、世界的な総合金融機関でありながら、フィンテックの普及によるユーザーの生活に密着したサービスを提供する最大手のサプライヤーを目指すことになる。