首都圏の事業用賃貸ビルのマーケットが活況だ。2016年8月11日付の日本経済新聞によると、都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィスビルの空室率は、3.94%と8年ぶりの低い水準となった。業績好調により従業員の増員に対応しなくてはならない企業と、新たに竣工した大型ビルのマッチングが進んだことが最大の要因だ。また平均募集賃料も6年5ヵ月ぶりの高水準となり、リーシングも活況状態が続いている。
オフィス移転を考えている企業は、耐震設備に優れ、1ヶ所にまとまった広さが確保できる新築ビルを好む傾向がある。新築案件の例として、「新宿バスタ」と同時に今年3月に完成した「JR新宿ミライナタワー」には、LINE株式会社やセイコーエプソン株式会社などの大手企業が入居している。
このように人気が続いている都心5区の平均募集賃料は、3.3平方メートル1万8,271円と、31ヵ月連続で上昇している。
都心の大家さん、大手不動産会社の好調決算が示すもの
また、少し古いが、同じ日本経済新聞の2016年5月19日付記事で、東京都心部のオフィス需要が底堅く、それに伴い都心部の大規模ビルを管理する大手不動産会社の財務状況が好転していることを示すデータが掲載された。それは2015年末の不動産大手8社が保有する不動産の含み益が、約7兆4,000億円となったという内容だ。2016年2月から導入された日銀のマイナス金利やアベノミクスによる経済状況の好転で不動産価格が上昇し、同時に賃料収入も以前と比較し高い賃料で成約していることが理由だ。
ここでいう含み益とは、財務上貸借対照表に計上されている不動産価格の簿価と時価との差額をいう。特に都心部に多くの物件を保有する三菱地所や三井不動産は、対前期比で約2割程度含み益が膨らんでおり、この地域の不動産価格の上昇が証明された形だ。
企業の株価が割高か割安かを判断する指標の一つとして、PBR(Price Book-value Ratio=株価純資産倍率)がある。PBRは会社の解散価値を表すもので、もし会社が解散状態になり過去から蓄積されてきた純資産を株主に返還すると決定されたと仮定した場合の、現在の株価と解散価値との割合を示す指標だ。一般的に1倍を切れば、その会社の株価は割安だと判断される。
この指標を大手不動産会社の決算に当てはめて考えてみよう。実務上、不動産各社が発表する純資産の部には前述の含み益は反映さず、注記により開示される。仮に含み益を考慮しPBRを計算しなおしたところ、8社中7社が割安の目安とされる1倍を下回っていた。ここからわかるように、不動産の含み益は企業の財務状況を強固なものにすることができるのだ。
このように東京都心部の事業用賃貸不動産が好調な状況下で、会社経営者が新たな投資先として選んでいるのが、東京都心における事業用ビルの区分所有だ。かつては、事業用不動産投資のケースでは1棟全部を購入し、それを賃貸に回す方法が主流だったが、近年ではオフィス物件の区分所有への投資という新たな方法も登場してきた。いわゆる投資用区分所有マンションのオフィス版で、区切られたスペースを所有し、企業にリーシングする不動産賃貸業を営むことになる。不動産を所有することにより、企業の財務上の選択肢が増えてくることが大きな魅力となっている。