ブラジル・リオデジャネイロで開催されていたオリンピックが8月21日、幕を閉じた。日本人選手の史上最多41個のメダルラッシュが報じられる影で、藻の繁殖によるプールの淀みや、米国人選手の盗難狂言事件などのネガティブなニュースも聞かれた。こうしたなか、「深刻な経済の悪化が、五輪が終わった後のブラジルにやってきそうだ」とする声がある。

五輪ロスは後遺症にまで悪化する?

短期的には一部関係者に、雇用や観光収入をもたらしたオリンピック。一方で、構造的に原油など資源輸出依存度が高い同国はかねてより心配される話題も多かった。世界的資源安や米利上げの開始による資本流出、ブラジル石油公社の賄賂事件に代表される、政治の腐敗などに起因する経済の不調を転換させるまでには至らなかった。

ただ、「もう、これ以上は悪くなりようがない」「悪材料は出尽くした」との声も聞かれる。2月頃から好調なブラジル株式市場は勢いを増し、利上げに踏み切れない米国や企業負債問題に揺れる中国などと比べ、比較的傷の浅いブラジルなど新興国が投資先として有望になってきたとするエコノミストもいる。実際は、どうなのだろうか。

うまみの少ない五輪でスランプ状態?

ここ数年、2桁台で推移する失業率が悪化する一方、消費者心理も冷え込むブラジル。景気後退が3年目に突入するなか、中央政府や自治体は今回の大会インフラに約200億ドル(2兆円)もの公金を投入した。賃金停滞や貧困などにあえぐ多くの人々の間では、「自国民の救済より、外国人のため投資したのか」との声がふつふつと噴火の時を待つマグマのように、溜まってきている。

期待された五輪観光も、ジカ熱流行で多くの外国人が来訪を控えるなどの影響もあり、当初予想の半分にも満たない13億レアル(約422億円)の収益しか生まなかった。取引信用保険大手の仏ユーラーヘルメスによると、観光による実質成長率は0.02%しか押し上げられておらず、インバウンドの面で五輪効果は無いに等しとの予想も出している。オリンピック関連全体でも、ブラジル経済は0.05%しか成長しなかったという。

ユーラーヘルメスの南米担当エコノミスト、ダニエラ・オルドネス氏は、「オリンピックは、以前からブラジル経済を悩ませてきた数々の問題を埋め合わせるには不十分だ」と指摘。さらに、「オリンピックによって、(今年7.3%増に達すると予想される)インフレがさらに加速する可能性さえある」と述べた。

同社はさらに、大会開催地リオデジャネイロ州の企業の会社再建申請が、昨年に比べて5%増加し、中小企業の債務不履行が12%上昇すると予想している。自治体に目を転じると、リオデジャネイロ州の財政赤字が、インフラ投資と公共支出により17%も増加している。インフレが悪化する五輪後は、どうしても緊縮財政に舵を取らざるを得ず、国民の恨み節が爆発して、政治が不安定にならないか、懸念するエコノミストも多い。

米ジョージ・メイソン大学のエコノミスト、クリストファー・クープマン氏などがまとめた「リオ五輪の経済損失」と題された研究は、「オリンピック開催による利益は、極めて大きく誇張されていた」と結論付けている。