市場関係者の注目を集めるFOMC(米連邦公開市場委員会)が間もなく開催される。利上げの可能性を巡ってはFOMC内部はもちろんのこと、市場でも意見が分かれており、見通しは不透明だ。その結果次第ではマーケットに大きな影響を与える可能性も否定できない。対立軸を整理した上で、今後の動向を占ってみよう。

利上げの有無を巡る見方は分かれたまま

9月のFOMCでの利上げの是非をめぐっては、FOMC内部でも意見が分かれており、その影響もあって民間の有識者の見通しも温度差が大きくなっている。

債券王として知られるビル・グロス氏は、予想を下回った8月の米雇用統計を受けても「9月のFOMCでの利上げはほぼ100%」とし、従来からの利上げ見通しのスタンスを崩していない。

一方、世界最大級の債券運用会社であるパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO、ピムコ)は「9月の可能性は非常に低い」とみている。

債券に強気とされているモルガン・スタンレーはジャクソンホールでFRB(米連邦準備理事会)関係者からタカ派的な発言が相次いだ後も「9月の利上げはない」としており、8月の雇用統計を受けてもその姿勢に変化は見られない。

ゴールドマン・サックスは目まぐるしく見通しを変えている。ジャクソンホールでのイエレン議長の発言を受けて、8月下旬に9月のFOMCでの利上げ確率を30%から40%に引き上げた後、2日には8月の雇用統計の数字は利上げを後押しするとして55%までさらに引き上げた。しかし、その後の経済指標が冴えない数字となったことから、7日には再び40%へ引き下げている。

こうした温度差からも、市場の気迷いムードを読み取ることができるだろう。

「完全雇用に近い」ことが利上げを正当化

タカ派とハト派で議論がかみ合わないのは、そもそもの視点が違うからだ。

タカ派は完全雇用がほぼ達成されており、近い将来インフレ率も上昇することが予想されるのだから、利上げ準備は整っていると主張する。

要するに、FRBの2つの責務である「雇用の最大化と物価の安定」が果たされていることから、金融政策は正常化すべきであるとするやや規範的な考え方を背景としている。

低成長から脱却が確認できない限り、利上げは困難

一方、ハト派は景気そのものの弱さを問題視しており、雇用の最大化が達成されているかどうかに焦点を当てていない。

失業率が低下し、雇用者数が何人増えようとも、経済成長が鈍化しているのだから、早急な利上げは低成長を長引かせるリスクが高いと考えている。FRBの責務からはやや距離を置き、包括的な実体経済の動きをより重視している。

ハト派の懸念は成長の「鈍化」に集約される。
FRBが公表している経済見通しを見ると、今年6月現在の長期的な成長見通しは「1.8%から2.0%」となっているが、5年前の2011年6月時点では「2.5%から2.8%」だった。

長期的な成長見通しはほぼ潜在成長率と言い換えることができ、過去の成長見通しを振り返ると米国の潜在成長率が低下し続けていることが分かる。米国では今年の第2四半期まで3四半期連続で労働生産性が低下していることもあり、成長の鈍化に歯止めがかかっている様子はまだ確認できていない。

低成長からの脱却に確信が持てないことから、ハト派はインフレ率についても着実に2.0%に向かっているのかどうか懐疑的にみており、早急な利上げは低成長・低インフレを長期化させる恐れがあるので反対というわけだ。