景気後退への備え、運用難や金融相場への懸念も

タカ派が利上げを急ぐ背景には「次の景気後退に対する備えもあるではないか」との指摘もある。

何らかの理由で景気が後退してしまった場合、現在の低金利では金利の下げ余地がほとんどない。もちろん量的緩和に逆戻りすることは可能であるが、欧州や日本の苦境を踏まえると、量的緩和による景気浮揚効果には多くを期待できないだろう。

また、低金利政策が長期化していることで、ファンドの運用利回り低下や金融機関の利ざやの縮小などが副作用として問題化している。

利上げは株安を招く恐れがあるにもかかわらず、ウォール街のファンドマネージャーの中には早期利上げを期待する声も少なくはなく、当局が利上げを急ぐ背景としても指摘される。

緩和的な金融政策によるバブルの発生も懸念されている。ファクトセットが9月9日に公表した見通しでは、S&P500採用企業の企業収益は今年第3四半期まで6四半期連続で減益となる見通しだ。一方、株価収益率は17.0倍と過去5年平均の14.8倍を大きく上回っており、株価も8月まで過去最高値を更新するなど堅調だった。このように業績を反映しているとは言い難い株高は、金融緩和による歪みを示唆している可能性がある。

利上げが「できない」と判断されると、株・ドルともにマイナス材料

CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)によると、9月のFOMCでの利上げ確率は9月14日現在で15%と低く、市場は利上げを織り込んでいない。

しかし、利上げの見送りは2つの点で問題を残すことになりそうだ。

まずは今後の利上げが難しくなる。ウォール街でも「9月はないが12月はありうる」との声はよく聞かれるのだが、経済指標がより厳しくなる可能性が見落とされている。

8月の米雇用者数は予想には届かなかったとは言え15.1万人増加した。さらに過去3カ月の平均は23.2万人の増加である。完全雇用に近づいているとの認識が正しいならば、12月の雇用情勢は現在よりも減速している可能性が高く、9月に見送っておきながら12月に利上げをする正当性が疑問視されかねない。

さらに問題なのが、利上げを「しない」のではなく「できない」のではないか、との見方が広がる恐れがあることだ。利上げ積極派が主張するように、FRBの責務という観点からは利上げが正当化されるにもかかわらず、利上げが見送られた場合には、実は米経済はそれほど堅調ではなく、ハト派が主張するようにぜい弱であることを示唆していると解釈されるかも知れない。

米景気の先行きに対する不安が広がることになれば、株価やドルにはネガティブな材料となるだろう。

FRBは将来想定される景気後退に備えて、金利水準を引き上げたかったが、結果的に十分な利上げをできずに次の景気後退が訪れることにもなりかねない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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