セールスの研修は非の打ち所がない
投信会社や保険会社、そして銀行は「自動車メーカーとディーラーの関係」に似ている。あなたがクルマを購入するときのことを考えて欲しい。自動車メーカーに直接買いに行くことはあり得ない。自動車の生産工場へクルマを買いに行くこともあり得ない。
一般のユーザーはディーラーを通してクルマを購入する。それと全く同じことが金融商品についても言える。銀行窓口は自動車ディーラーと同じ位置づけにあると考えると理解しやすいだろう。
自動車メーカーはディーラーのセールスマンを集めて研修を行う。このクルマのどこがセールスポイントなのか。どのような説明を行えば顧客は好印象を持つのか。ライバルと比較してどういう点が勝っているのか。
銀行も同じである。セールスマンはこうした点についてしっかりと研修を受けている。マーケティングノウハウに裏付けられた研修は非の打ち所もなく素晴らしいものだ。顧客のネガティブな反応に備えた「想定問答集」も用意されており、そうした顧客にはどのように対応するかもアドバイスが行われている。
マニュアル通りに対応していれば顧客に対し理想的な商品提案が行えるようにうまく考え抜かれているのだ。
それでもマニュアル通りはつまらない
だが、銀行と自動車ディーラーのセールスには決定的な違いがある。つい先日、私はクルマを買い替えた。自動車ディーラーを数件訪問したが、それぞれのディラーの対応は実に興味深いものだった。
A社では、駐車場で案内してくれた女性がドアを開けるなり「とてもセンスの良い革の色ですね」と話しかけてきた。恐らく、訪問客のクルマを褒めるように指導されていると想像されるが、顧客がどんなこだわりを持ち、クルマでそれを実現しようとしているのかを初対面の最初の言葉で言い当てるのは実に難しい。
私がどんなこだわりを持ち、クルマでそれをどのように実現しようとしているかは、マニュアルのどこにも書かれていないはずだ。
B社のセールマンには、私の腕時計とクルマに対する価値観を重ね合わせ、とてもユニークな提案をしていただいた。もちろん、そんなものはマニュアルにはないだろう。
こうした経験を通じ、マニュアルを一言一句違わずに暗記することが、いかに馬鹿げたことか痛感せずにいられない。マニュアル通りのセールスはつまらないと感じるのだ。
「インフレに備えて資産運用しましょう」
「年金だけでは不安ですから自分で運用しましょう」
そんな定型のセールストークにどれだけの意味があるというのか。
セールスとは人と人とのコミュニケーションである。「投資なんて儲かりませんよ。ほとんどの人は損をしています。でも、面白いですよ!」そんなセールストークで、トップセールスに立つこともできるのだ。(或る銀行員)