北陸新幹線の関西ルート選定で、京都府、福井、滋賀両県の対立が激化している。滋賀県が独自の試算結果を公表し、滋賀県米原市の米原駅で東海道新幹線に接続する「米原ルート」の優位をアピールしたのに対し、他のルートを支持する京都府と福井県が猛反発。京都府が文書で抗議する騒ぎに発展した。
北陸新幹線関西ルート選定は与党の検討委員会が年内の決着を目指しているが、調整が難航している。年内決着は困難との見方も浮上し、越年の可能性も出てきた。
候補に米原、小浜・京都、舞鶴の3ルート浮上
北陸新幹線の関西ルートは、福井県敦賀市の敦賀駅から大阪府大阪市の新大阪駅を結ぶもので、与党検討委員会が京都市までの候補として米原ルートのほか、福井県小浜市から南下して京都市を通る「小浜・京都ルート」、小浜市と京都府舞鶴市を経由して京都市へ向かう「舞鶴ルート」を挙げた。
さらに、京都市から大阪市までについても京都-新大阪間を最短で結ぶルートと、京都、大阪両府、奈良県にまたがる関西文化学術研究都市を通る2コースが候補として挙げられ、国土交通省がそれぞれの建設費や所要時間などの調査を進めている。近く公表される見通しだ。
このうち、米原ルートは滋賀県と石川県議会、小浜・京都ルートは福井県とJR西日本 <9021> 、舞鶴ルートは京都府が支持している。京都-大阪間では京都府が関西文化学術研究都市を通るよう主張してきた。
近畿地方と中四国の府県、政令市で構成する関西広域連合は当初、米原ルートを支持していたが、今年1月になって「状況が変わってきた」(連合長の井戸敏三兵庫県知事)として決定を白紙撤回した。ルート選定の議論を与党に委ね、早期決定を促す構えを示したわけだ。
これを契機に、関係府県が独自の主張を声高に展開するようになる。このため、旧国鉄時代に政治家が自分の選挙区に有利になるよう鉄道路線を誘致した「我田引鉄」と同様の状態と揶揄されてきた。
滋賀県の独自調査発表に京都府が猛反発
滋賀県がまとめた3ルートの試算は、建設費が米原ルート4041億円、小浜・京都ルート1兆3606億円、舞鶴ルート1兆7375億円。距離の短い米原ルートが最も経済的という結果になった。
年間利用客は、米原ルート1120万人、小浜・京都ルート970万人、舞鶴ルート800万人で、米原ルートが最も多いと予測している。
時間短縮効果など便益を建設費などの費用で割った費用対便益は、米原ルート1.60、小浜・京都ルート0.54、舞鶴ルート0.18。費用対便益は数字が大きいほど良いとされるため、この点も米原ルートに軍配が上がるとしている。
滋賀県交通戦略課は「米原ルートは工期も3ルート最短の5年で済む。米原駅で東海道新幹線と乗り換えになるが、米原ルートがあらゆる点で優れていることは間違いない」と主張する。
これに対し、京都府は副知事名で滋賀県へ「関西全体で便益を考えている中、一方的な主張がなされたことは大変に残念」とする文書を送り、強く抗議した。京都府交通政策課は「舞鶴ルートから関西文化学術研究都市を通るのがベストの選択」と反論している。
福井県新幹線建設推進課も「米原ルートは乗り換えがあり、利用者にとって好ましくない。小浜経由は整備計画の段階から決まっていたことであり、小浜・京都ルートが望ましい」と従来の主張を繰り返して滋賀県を牽制した。
大阪府や関西経済界に早期延伸を求める声
北陸地方はもともと、経済面や人の交流で関西と深いつながりを持ってきた。北陸地方の若者が大学進学や就職するのも、関西が中心だった。しかし、北陸新幹線が石川県金沢市まで延伸して以来、北陸と首都圏の結びつきが強くなっている。
今春の大学入試では、関西の私立大学は福井、石川、富山3県からの受験生が軒並み減少した。大阪府東大阪市に本部を多く近畿大は、大学全体の志願者が5.5%増えたにもかかわらず、3県からの出願は9~11%それぞれ減っている。
関西経済界は家電業界の不振などから地盤沈下が続いている。北陸との関係が希薄になることにも危機感があるため、1日も早い大阪延伸を望む声が上がっている。福井県で開かれた関西、北陸の交流会であいさつに立った関西経済同友会の蔭山秀一代表幹事は「北陸新幹線の早期大阪延伸を期待する」と力を込めた。
こうした声と歩調を合わすのが大阪府だ。大阪府戦略事業室空港・広域インフラ課は「最終決定は政府がすること。府としては1日も早い大阪延伸を強く要望していくだけだ」と訴えている。
関西との関係強化のため、早期延伸を望む声は北陸にもある。石川県は県議会が2015年、米原ルートで決定するよう求める決議を採択しているが、県当局はこれまで表立ったルートの主張をしてこなかった。
石川県交通政策課は「県議会の決議は非常に重いと受け止めている。しかし、3ルートの調整を政府が進めており、みんなで議論していけば自ずと話が収れんしていくのではないか」と暗に早期延伸を求める発言をしている。
しかし、関西の関係府県は決起大会開催や陳情で政府へ働きかけを強めており、一歩も譲る構えを見せていない。関西全体より自府県の利益を優先させているからだろう。国交省、与党委員会とも調整に苦慮し、年内決着が難しい方向へ動きつつある。
高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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