2016年4月に公開された「パナマ文書」では世界の超富裕者層や企業の租税回避の実態が暴露され世界に衝撃を与えた。米アップルのような多国籍企業は軽課税国に売上を計上することで租税回避を行っているとして、EUはアップルに対し、過去のアイルランドでの法人税未納分として145億ドル(約1.5兆円)の支払いを命じた。個人や企業の節税行為は違法ではないが、国際的な租税回避に対する取り締まり強化へ世界は動き始めている。日本の国税庁が進めている税逃れ監視プランについても詳細を説明しよう。

国税庁は財産の海外移転の監視強化

国税庁は10月25日、「国際戦略トータルプラン」として国際課税への取組の現状、今後の国際課税の方向性を公表した。経済社会が国際化するなか、富裕者層や企業による海外取引が増加している。家計部門からの海外投資は15年で20兆円に達し、海外現地法人数は同24000社に達している。国外で設立した法人や各国の税制・租税条約の違いを利用した海外への資産移転や租税回避は頻繁に行われているのが実情だ。

「国際戦略トータルプラン」では、個人富裕層の中でも特に資産を持っている「超富裕層」の情報を集めて監視する取組を充実させていく。充実させるポイントして、情報リソース、調査マンパワー、グローバルネットワーク強化の3分野を挙げている。

現在、情報リソースとしては、海外への送金、海外からの受領で100万円を超えるものについては金融機関から情報が提供されている。国外財産5000万円を超える富裕者層、所得金額2000万円超かつ3億円以上の財産又は1億円以上の有価証券を有する者には自己申告をさせている。自己申告に漏れや虚偽があった場合はペナルティが課せられる。

租税条約等を結んでいる国や地域からは、金融財産の取引に関する情報を収集している。今後は、非居住者の金融口座情報を外国との間で交換することを進めて行くことで監視をさらに強化していく計画だ。

総収入金額1000億円以上の多国籍企業については、現状、国別報告書事項等を提供させている。今後はそのデータを外国間と交換して行くことになる。

調査マンパワーに関しては、超富裕層への取り組みは「重点管理富裕層プロジェクトチーム」で進めている。現在は約50人で構成しているが、今後さらに増員し国際課税をモニター出来るようマンパワーを強化する。

グローバルネットワーク強化としては、OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトなどとの情報交換を通じて強化して行く。税の滞納者が租税条約の締約国に財産を保有する場合、相手国の税務当局に徴収を要請することや、国際的な二重課税問題の解決のため相互協議を実施することなどをすでに始めているが、その対象国をさらに拡大していく予定だ。

同時に、国際間の租税の不公平税制を改正するべく法的整備をすすめる。たとえば、通信販売(EC)で問題になったのは、海外籍の法人のECに対しては消費税が課税されず、国内籍のECには課税されることだ。そもそも、低課税国籍の法人は税率も低く、国内企業にとっては不公平感があり日本の企業はどうしても競争力で見劣りする。

パナマ文書と多国籍企業追徴課税の衝撃

16年4月に公表された「パナマ文書」とは、パナマにある法律事務所のデータがハッキングされて流出、企業や富裕者層のタックス・ヘイブンでの税回避の実態が明らかになった事件だ。これを見れば、誰がタックス・ヘイブンにペイパーカンパニーを作り、税金回避をしていたかが一目瞭然だ。世界的に、有名な会社や政治家の名前などが挙げられた。日本人および日本企業リストも公表された。

また、利益移転に関しては、前述のアップルの他にも、スターバックス、アマゾン、グーグルといったグローバルで有名な多国籍企業のBEPS(税源浸食と利益移転)が問題視されている。グローバル企業がグループ関連企業間における国際取引により、各国の課税制度の違いを利用して税率の高い国から無税又は低い税率の国へ所得を移し、納税額を最小限に抑える行為だ。

例えば、スターバックスの場合は、英国に進出して以来14年間で約3840億円の売上を計上しているが、支払った法人税は約11億円であるようだ。しかも、2008年以降は全く英国の法人税を支払っていない。知的財産権や商標権の使用料をオランダの本社に支払ったり、スイスよりコーヒー豆を仕入れたりと、法人税が高い英国での利益をさまざまな方法で、法人税の低い国に移して節税していたためだ。

これらの行為は違法とは言えない。税制度や租税条約の隙間をついているだけだ。したがってそのひずみを是正するため、BEPSプロジェクトで各国間の税制などを見直し始めたのだ。

ネット社会が世界の距離を縮め、企業間、個人間でも租税に関する以前の枠組みの問題点が表面化している。企業のサステイナブルな成長のためにも、不公平税制を見直し、国民が納得できる税制の整備が急がれよう。(ZUU online 編集部)

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