「小児の服薬管理は医者によって保障されるべきである。健康な体作りは、幸福な家庭生活はもちろん、国家の文明程度をも表している。児童薬害の減少には、多方面にわたる力を結集することは必須である」
中国の地方紙に掲載された小児薬害に関する記事はこのように始まっている。ちょっと大げさに聞こえるが、中国の子供たちは、一体どのような医療環境に置かれているのだろうか。
毎年3万人が薬害で聴覚障害に
このような記事は、たいてい政府の報告書を「解読」するという体裁をとる。今回のそれは「2016年児童用薬安全調査報告」に依っている。そこには戦慄の記述があった。次のようなものである。
「中国の14歳以下の児童中、毎年約3万人が、不当な投薬により聴覚障害を起こしている。肝臓、腎臓の障害、神経系の損傷についてのデータはない」
「最新の我国児童の罹患率は、全体の19.3%である。しかし現有の3500種類に及ぶ医薬品のうち、小児専用薬は60種類、全体の1.7%しかない」
この聴覚障害とは、耳が聞こえなくなったという意味である。日本でこんなことが判明すれば、天地をひっくり返した騒ぎとなるだろう。
現在の中国小児薬は、一般の成人薬を起点としてその“縮小版”として存在している。小児には本来小児専用薬が必要である。しかし現実には、これを全く欠いている。病院の薬を飲んで健康を損ねた小児事例は後を絶たない。調査対象の0歳〜14歳の子供を持つ3576家庭のうち、84.9%で、服用による子供の異常が発生していた。そして72.5%の家は、世帯主の判断で服薬を中止している。
改善への提言
小児薬とはそもそも「秘薬」であり「危険薬」である、という考えもある。しかしそれを用いないわけにはいかない。小児薬害を防ぐため、社会的な協力体制が必要だ。ポイントとして3点をあげている。
(1) 小児薬品質の確保。小児薬は研究開発経費が高くつく。臨床試験は難しいし、市場は小さく、利潤は低く、危険は高く、責任は大きい。政策による後押しがないと、「研究開発−生産−使用−販売」という連鎖が発展できない。
(2) 薬は適正に用いなければならない。医師は科学的な裏付けに基付き、大量投薬をやめなければならない。家族も子供の病気と服薬に関して、非科学的な自主判断による加減などをしないようにすべきである。
(3) 薬は適正に管理しなければならない。小児用薬品の監督管理、品質を確保する。そのため小児用薬物の法規を立法手段で制定する。また健全な「小児基本薬物目録」を編集する。
両親の意識改革も必要
さいごに、小児薬害の撲滅には、誠実な関連人士の建議が必要だとし、「我国小児用薬の安全のため全社会各界がその能力を発揮し、手を携えて科学的な小児薬の知識を大衆に伝播、教育していこう」という提言で結んでいる。
筆者は昨年、大総合病院の休日診療棟小児科を訪問したことがある。両親と一緒に3人掛けで座る小児用点滴専用ユニットが、十数台並んでいた。実際に8割以上稼働していて、その姿はまさに壮観だった。中国人は何事も大仕掛けを好む。両親は、強力な点滴を処方しないと納得しない。こうした思考回路が子供の薬害事故につながりやすい風土を作っている。これを正すためには、両親に向けた大がかりなスローガンが必要とされる。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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