中国人はとてもスポーツ好きには見えない。子供たちをスポーツ教室に送迎する親の姿はよく見かけても、少年のチームスポーツ観戦に興じる親の姿はほとんど見ない。学芸を学ばせる学習塾の一つでしかないのだろう。
オリンピック選手たちは、選ばれ人工的に作られた存在であり、おおむね人間味を欠いている。やるほうも見るほうも、楽しみ、熱中する風土を欠いているのである。
それでも中国はスポーツ産業育成には注力している。2014年に公布した「関干加快発展体育産業促進体育消費的若干意見」をきっかけとして、政策的サポートに本腰を入れ始めた。
スポーツ産業の数値目標
目標は、2025年までに中国スポーツ産業の総生産を5兆元に押し上げることである。2015年の総生産は1兆8000億元、前年比4737億元増えて、当年のGDPの0.7%を占めた。しかし同時期の米国では2.89%を占め、世界平均も2.1%である。まだまだ業界発展の余地は大きい。
そんな中、北京大学光華管理学院は「2016年北大光華体育産業発展論壇」を開催し、スポーツ産業の未来に関するディスカッションを行った。米コロンビア大学体育管理センターの主任教授を招待、基調講演を依頼するとともに、両大学においてスポーツ管理学科の相互単位認定などの提携協議を行った。
コロンビア大学のスポーツ学科は世界唯一のスポーツ管理、スポーツデータ分析学科を持ち、すでに学生の15%は中国人という。この提携によりさらに中国人指導者の育成を強化する。
過大な計画、企業の問題
今年5月には、国家発展改革委員会に「国際合作中心体育産業辯公室」という組織も発足した。強大な経済政策の権限を持つ同委もスポーツ産業を重視する姿勢を示した。また地方政府も積極的な取組みを打ち出している。
地方政府の計画を合計すると、2025年のスポーツ産業総生産は7兆元に上り、国家計画を2兆元も凌駕する。これはGDP統計と全く同じである。
それとは別に7月には、国家体育総局が13次5カ年計画(2016~2020年)体育産業発展計画を発表している。それによると2020年までのスポーツ産業総生産を3兆元、GDP比1%を目標としている。これでは2021年以降の5年間はかなりタイトだ。
ところが生産の主体となる企業側には少なからぬ問題がある。中国証券市場の上場企業約4000社のうち、体育産業企業は指折り数えるほどしかない。そのうえ“李寧”“安踏”などの主要スポーツ企業は、スポーツ大会の運営能力や管理能力を欠いている。また体育場の管理やメディア戦略をまともに行える会社もない。
そのため社会資本投資をスポーツ産業に振向け、新しい市場環境を創造しなければならない。政府は関与を強め、国内ブランド育成にも努める予定だ。確かに市場原理に任せていれば、アディダス、ナイキ、アンダーアーマーなど欧米の人気スポーツブランドに全く対抗できないだろう。中国人は重度の欧米ブランド信仰病なのである。
スポーツ人口拡大の担い手は?
中国の小中学校にはスポーツの部活はない。高校、大学も同様で学生スポーツ自体ほぼ存在していない。金メダリストたちやNBAで活躍した姚明(ヨウメイ)氏などは成功したビジネスマンのイメージが強く、その種目の魅力を伝えるカリスマ伝道師にはなっていない。
一般の子供たちがスポーツを始めるきっかけは、親の強制による塾通いくらいしかない。各競技のすそ野拡大に汗をかく人材は全く不足している。スポーツ人口の拡大より スポーツ産業の売上げ計算を優先する考え方は、いかにも中国人の面目躍如である。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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