総務省は年明けから、ベンチャー企業の地方への拠点設置を促す「お試しサテライトオフィス」事業をスタートさせる。都会から地方へ人の流れを加速させるのが狙いで、2016年度補正予算に3億3000万円を計上した。
サテライトオフィスの誘致は徳島県神山町が早くから進め、実績を上げている。今回の事業は神山町の成功事例を今ごろ横展開しようとしているわけだが、既に多くの地域が誘致活動を展開しているうえ、過去の横展開事業は安易な模倣に終始して失敗することが多かった。同じ轍を踏まないためには、誘致競争を勝ち抜くための自治体の創意工夫が必要だ。
全国2県と8市町をモデル地区に採択
お試しサテライトオフィスのモデル地区に採択されたのは、山口、徳島の両県と、青森県弘前市、秋田県大館市、千葉県銚子市、新潟県南魚沼市、福井県鯖江市、京都府京丹後市、島根県松江市、鹿児島県錦江町の8市町。
徳島県のように既に40社以上のサテライトオフィスを誘致したところもあれば、大館市などまだ1社も進出していない自治体もある。各自治体は年内に予算措置をしたうえ、年明けから本格的な誘致活動に入る。
サテライトオフィスは企業や団体の本拠から離れた場所にある事務所で、高速インターネット回線などを利用して本社にいるのと同じように仕事をしている。設置しているのは主にIT企業や広告会社、デザイン事務所などだ。
総務省は近く、首都圏の企業を対象にニーズ調査を進めることにしているが、ITベンダー企業を中心にサテライトオフィスの地方設置に関心を持つ声を聞くとして、サテライトオフィスの需要がまだあるとみている。
総務省地域自立応援課は「若い世代を中心に都会から地方へ人の流れを加速するのに、サテライトオフィスは打ってつけ。全国各地にサテライトオフィスを拡大していきたい」と意欲を見せた。
コテージや古民家をオフィスに活用
採択された10自治体のうち、秋田県大館市はベニヤマ自然パーク内にあるコテージを借り、そこでお試し体験をしてもらう計画。空気がきれいで星が美しく、温泉と緑に恵まれていることを売り物に誘致を目指す。
市は2016年度に移住交流課を新設した。その担当者と既に移住している人がスクラムを組み、誘致企業社員の暮らしを支援する準備も進めている。大館市商工課は「サテライトオフィスの誘致競争は激しさを増している。うちは後発だが、美しい自然を武器に競争を勝ち抜きたい」と意気込みを語った。
福井県鯖江市は市内の古民家など空き家を改修し、サテライトオフィスの誘致を計画している。お試しオフィスは越前漆器の産地で、メガネの流通拠点になっている河和田地区を念頭に置く。
鯖江市商工政策課は「UターンやIターンの若者の雇用の場となるだけでなく、空き家の利活用促進にもつながる。今後、地域の良さを打ち出し、誘致に全力を挙げたい」と力を込めた。
徳島県は県西部の三好市、美馬市、つるぎ町、東みよし町の4市町にお試しサテライトオフィスを置く考え。4市町とも過疎地域を多く抱え、人口減少と高齢化社会の進行に苦しんでいる。
サテライトオフィスの本家といえる神山町やサテライトオフィスが急増中の美波町とはかなり離れた場所になるが、三好市には5社、美馬市に1社がサテライトオフィスを設置している。徳島県西部県民局は「既に多くのサテライトオフィスがあるので、企業は進出しやすいのではないか」と期待感をにじませた。
過去、成功事例の横展開は失敗の山
サテライトオフィスは、神山町が2010年に第1号を誘致したあと、全国各地で誘致合戦が続いている。多くの自治体が工場誘致に代わる地域振興策と期待しているだけに、その分誘致競争は激しさを増している。
しかし、お試しサテライトオフィスと同様の取り組みは、各地の自治体が既に実施している。長野県は2015年度、「まちなか・おためしラボ」と称して首都圏などから8企業、14人を集め、サテライトオフィス体験をしてもらった。
兵庫県丹波市は2015年11月からお試しテレワーク推進プロジェクトで、働く場所と住居を無償提供した。島根県奥出雲町も県外企業に合宿場所を提供し、将来のオフィス誘致を狙っている。
総務省も2015年度からふるさとテレワーク実証事業として全国のモデル地区を選定、それぞれの地区でサテライトオフィス誘致を含めた取り組みを進めている。今回の事業はそれらの2番煎じ、3番煎じとなるわけだ。モデル採択された地区が他地区との競争に勝てる保証はない。
こうした成功事例の横展開事業はたびたび企画されてきた。思いつくままに挙げてみても、桜堤、生ごみ堆肥化、橋のライトアップ、インバウンド観光など中身は多種多様。しかし、どの地域で実施しても効果が同じという案件を除けば、成功例は限られている。
特に地域振興にかかわる案件だと、真似るべきはプロセスなのに、結果だけを模倣して失敗する例が後を絶たない。商店街の振興策などがその代表で、公の金が下りることから、地元が十分な知恵を絞らず、安易な模倣に終わっているからだ。
お試しサテライトオフィス事業は経済対策として実施されることから、大急ぎでかき集めてきた側面が否めない。だが、安易な模倣に終わったのでは予算をばらまいただけで終わる。採択された自治体にどこまで知恵をひねり出させるのか、総務省の指導力も問われている。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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