2017年4月に予定される都市ガス小売りの全面自由化まであと4カ月余り。経済産業省は8月からガス小売り事業への新規参入登録の申請を受け付けているが、申請を済ませたのは11月16日の九州電力 <9508> を含めてまだ7社に過ぎず、ガス自由化は一向に盛り上がりを見せていない。
4月の電力自由化で通信会社やガス会社、自治体など異業種からの参入が相次いだのと大きく異なる。国内の津々浦々まで張り巡らされた電線網と違い、ガスのパイプラインが国土の一部にしか敷設されていないなど、参入を妨げる壁があまりにも高いからだ。
富山ラインは完成したが、遅々として進まぬパイプライン整備
富山県富山市の日本海ガス岩瀬工場で10月、完成したばかりのパイプラインから天然ガスの受け入れが始まった。このパイプラインは新潟県糸魚川市と富山市を結ぶ「富山ライン」で、国際石油開発帝石 <1605> が敷設した。
富山ラインは全長103キロ。工事は2012年から始まったが、山が海岸まで迫る難所もあり、4年の年月と830億円の費用を費やした。既に7月から日産化学工業 <4021> の富山工場に供給しており、年明けからアサヒ飲料北陸工場にもガスを送る。
日本海ガスはこれまで液化天然ガスを陸上輸送で工場内へ運び込み、気体に変えて北陸地方の企業や家庭に販売してきた。パイプライン開通で供給の安定性が高まるほか、コスト削減もできるとしてガス料金を引き下げている。
岩瀬工場では経産省や地元自治体の関係者らを招いて盛大な竣工式が催された。国際石油開発帝石経営企画本部は「富山県に導管が通ったことにより、北陸地方の経済発展に寄与できるのではないか」としている。
今年は茨城県日立市と栃木県真岡市を結ぶ全長約80キロの東京ガス <9531> 茨城-栃木幹線も3月に開通している。しかし、国全体で見るとパイプラインの整備は莫大な費用がかかることもあり、なかなか進んでいないのが実情だ。
パイプラインは3大都市圏に集中、東京と名古屋も未接続
国内のパイプライン整備が遅れたのは、日本が以前から海外産の天然ガスを液化して船で輸入し、気化して各家庭や企業へ供給してきたことも影響している。パイプラインの総延長は約25万キロあるが、このうち幹線はざっと5000キロに過ぎない。
ロシアなどからパイプラインを使って天然ガスを輸入しているイタリアなどヨーロッパの先進国に比べると、ざっと6分の1程度になる。国土の総面積でいえば、6%ほどしか整備されていない。
しかも、パイプライン網は大手都市ガス会社が自社の販売エリア内で整備を進めてきたため、3大都市圏に集中している。2014年の大阪ガス <9532> 、中部電力 <9502> による三重・滋賀ライン(全長約60キロ)の開通で、京阪神と中京地方はつながったものの、首都圏と中京地方はいまだに接続されていない。
パイプラインを公共インフラと考えてきたヨーロッパでは、国や自治体が主導して整備を進めている。イタリアは建設費を州が負担してきた。英国は国営企業の資金調達を政府が支援している。
経済産業省はようやく、パイプラインの整備を国が主導する新組織設立の方向を打ち出したが、ガス自由化に間に合わないだけでなく、新組織が新たな方針を打ち出しても動きだすのはかなり先になるとみられている。このままではガス自由化からしばらく時間が経っても、3大都市圏以外で新規参入がほとんど期待できないだろう。
託送料金や保守点検も新規参入の妨げに
新規参入を妨げる障壁は、パイプライン整備の遅れだけにとどまらない。
● 新規参入業者が支払うガスパイプラインの使用料(託送料金)が高くなりそう
● マンション一括契約が認められない
● 小売業者がコンロなどガス機器の保守点検をしなければならず、コストが膨れ上がる● 天然ガスの安定確保が必要
--など、ほかにも高い障壁がいくつもそびえ立つ。
電力会社は発電用に大量の天然ガスを確保しているうえ、LP(液化石油)ガス業者と提携して保安業務を任せるなどしているが、エネルギーと関係のない異業種からだと簡単に参入できそうもない。
来年のガス自由化では、公営約30業者を含む一般ガス事業者約200社に新規参入の電力会社が挑む構図が大都市圏で見える。しかし、地方で活発な動きは見えない。
しかも、気になる点がもう1つある。不当な料金値上げを阻止するために、経過措置として料金規制が残る12社は、東京ガス、大阪ガスなど大都市圏の会社が中心になっていることだ。競争の乏しい地方から規制が撤廃されることになりかねない。
競争が起きなければ、ガス料金は自然と高止まりする。既に完全自由化となっているLPガスは、都市ガスのざっと2倍近い料金だ。同じ状況になるとしたら何のための自由化か分からない。
経産省は電力自由化から矢継ぎ早にガス自由化を進めようと対応を急いだため、こうした問題点が積み残されたままになってしまった。現在、審議中のガス託送料金を大手ガス会社の主張を退けて大幅に引き下げるか、新たな規制緩和措置を講じるかしなければ、全くの期待外れに終わってしまう可能性が大きい。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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