Brexit に米大統領選挙、これほどまでにメディアの予想が外れるなんて何かがおかしい。世論を作り上げ、リードしてきた権威は、世の中の流れを正確に読み取る能力を失ってしまったのではないか。

自分たちに都合の良い結論を用意し、都合の良い情報しか流さない。それが間違っていることが明らかになっても「想定外」という言葉で責任を回避する。そんなメディアのなんと多いことか。だが、それは我々銀行員にとっても他人事では済まされない問題なのだ。

銀行員は経済新聞の信者である

朝の通勤ラッシュ。これほど多くの人間がいるにもかかわらず、私には何となく銀行員を見分けることができる。通勤途中に経済新聞に目を通している人間、とりわけ女性となると、それは高い確率で銀行員と思って間違いない。

朝のミーティングで経済新聞の読み合わせを行っている銀行も少なくないだろう。特に金融商品を販売する部署はそうだ。全員でその日の新聞を持ち寄り、どのような記事が載っているのかを確認する。

当然、私の銀行でも毎朝そんな作業が行われている。実にくだらない作業である。「それくらいのこと、自分でヤレよ! 時間の無駄だろ」まともな人間ならきっとそう思うはずだ。

ところが、「経済新聞を読んでいない人間は銀行員失格!」と、言わんばかりに上司から叱責されるのだから、銀行員の多くは経済新聞の信者にならざるを得ない。いつのまにか、経済新聞に書かれていることは全て正しいと刷り込まれ、信者となってしまうようなところがある。

それ、おかしくないですか……

ところが、さすがに私の職場でも「この新聞記事、おかしくないですか。中立性を欠いているというか……」「最近、痛い記事多いですよね」そんなことを言い出す行員が増え始めた。

きっかけは英国のEU離脱、いわゆる Brexit をめぐる報道だった。多くのメディア、アナリスト、識者らは英国はEUから離脱することはないと語っていた。メディアはそうした主張を垂れ流し続けた。まるでそれが既定路線であるかのように。

「英国がEUから離脱すれば、たちまち英国経済は大きな打撃を受けるだろう」そんな解説に多くの人が疑問を抱くことはなかった。そして、国民投票ではまさかの離脱が決まった。一旦は英国株は急落したものの、わずか4営業日で急落前の水準を回復。ポンド安と商品相場の上昇を追い風に、蓋を開けてみれば、6月の上昇率は先進国で最高となった。

米国の大統領選も同じだ。「トランプ候補が勝利すれば、株式相場は暴落する」「クリントンが勝利するに決まっている」多くの人がクリントンの勝利を疑わなかった。そして、結果はご存じの通りだ。果たして、マーケットはどのように反応したか。

確かに、東京市場は大きなショックに見舞われ、円高・株安が進んだ。しかし、東京株式市場が閉まる午後3時にはすでに為替の円高にも一服感が出始めていた。その後、欧米市場が次々とオープンするが、パニックは起こらなかった。皮肉なことに東京だけが大騒ぎしたに過ぎなかった。

翌朝の経済新聞の朝刊には『トランプリスク現実に 世界市場不安広がる』との見出しが踊っていたのだから、間抜けも良いところだ。

さらにその経済新聞は、為替と株について複数の専門家による年内の予想を載せていた。「為替は1ドル94.5円から105.5円」「日経平均株価は1万5500円から1万7000円」どの専門家の予想も円高、株安を示唆するものである。だが、予想は1日目からそのレンジを大きく外れる結果となった。

誰かがつぶやいた「痛すぎる」と。