中国の環境税にあたる「排汚費」の狙いは環境汚染者への懲戒である。環境汚染減少へ向けて、当該企業の支払うべきものだ。しかしそれを地方政府が立替えている、と新華社が糾弾している。この行為は企業の排汚を容認し、貴重な財政資金を浪費する。しかも当該地方の環境に重いダメージをもたらすとしている。
排汚費の概念
中国の排汚費は以下の4つのことだ。2003年に施行された国務院令「排汚費征収使用管理条例」で定められている。(1)汚水排汚費(2)廃気排汚費(3)固体廃物及び危険廃物排汚費(4)噪声超標排汚費−−である。
そして納入された排汚費は、重点汚染源の防治、区域性汚染防治、汚染防治新技術、国務院規定のその他防治項目、など環境保護行政に使用される。
2014年9月、国家発展改革員会、財政部、環境保護部は政府合同で、各省(市、区)に対し、排汚費の徴収標準を総合的にとらえ、納付率を上げるよう「関干調整排汚費征収標準等有間問題的通知」を出している。
また党中央でも、中央全面深化改革領導小組の審議を経た「環境保護督察方案」により、初めて環境保護政策の“党政同責”を謳っている。環境保護監督体制の責任を明確化するためで、企業の監督を環境保護部が、行政の監督を党の環境保護督察組が行い“双責”とする。
そしてこれまでのやり方には後戻りしないと全社会に向けて“鉄腕”の決心を表明した。環境汚染対策が待ったなしとなったころである。しかし地方は無視を決めこむ。
地方行政と国有企業は一体
それどころか地方政府は納付金を立替えていた。
中央第四環境保護督察組は11月17日、江西省への監察意見で“環境保護不作為の問題突出”と指摘している。名指しされたのは、同省の東平市で、排汚費征収使用管理条例に2012年〜14年まで違反を繰り返していた。市の財政資金を36企業分の排汚費の立て替えに投入していた。その金額は1147万元に上った。
根本的な原因は、行政と生産部門が一体だった、社会主義経済時代のDNAにある。これは改革開放政策以降、徐々に分離が進んだ。
たとえば、国家煙草専売局から生産部門として中国煙草総公司が分離した。鉄道部は2013年まで一体を保ったが、国家鉄路局と中国鉄道総公司に分割された。
港湾業務においても、例えば山東省・青島の場合、青島港務局と青島港集団有限公司に分離した。ところが数年前、北京招商局集団という外地の大企業が、青島港に埠頭を作り港湾業務に進出する、と発表した。すると港務局と青島港集団は一緒になって反対運動を展開、ストライキや水先案内人を派遣しないなどサボタージュの挙に出た。外圧に直面すると両者は元通り一心同体となる。
排汚費などの罰金も経費に過ぎず、資金に余裕のある方の帳簿で処理しておこう、くらいの感覚に違いない。
外資企業には厳しく
ところが外資企業には全く別の対応だ。法律を前面に押し出してくる。各級地方政府は定期的に外資企業を集め、連絡報告会を開催する。そこでは真面目に問題点を協議している。
外資系工場の排水処理工程にはモニターが取り付けられ、24時間監視される。そのため新たに汚染水の浄化システム投資が必要となった企業もある。中小工場ではそれが致命的なコストアップにつながった。
このように、環境汚染対策は国有企業と外資系企業とは違い、Wスタンダードである。外資企業で得たノウハウをできるものから国有企業へ移植すればよい、くらいが地方の本音だろうか。結局、党中央がいくら力んだところで、地方は軽く受け流すいつものパターンである。個々の経済単位におけるこうしたしたたかさは、逆説的だが、中国経済の下支えとなっているのだろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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