すべてのお客様は「選別」されている
では、銀行は本当にすべてのお客様を平等に扱っているのか。はっきり言おう。銀行はお客様を「選別」している。
給料の振り込みと、公共料金の引き落としにしか銀行を利用していないお客様、数億円の預金を預けているお客様、運転資金や設備資金の借入を行う優良企業のオーナーとでは必然的に対応は異なる。
考えてみれば当然のことだ。預金口座に数万円の残高しかないお客様や、小銭の両替に銀行を利用するお客様から銀行がどれだけの収益を得られると言うのか。
それに対し、大口の預金を預け入れているお客様(低金利のいまでは必ずしも収益は生まないが)、融資を利用してくれるお客様は銀行にとって「良い顧客」である。そんなお客様を「特別扱い」するのはごく自然だ。
営業戦略上もそうした選別は有効であると考えられている。お客様の職業や収入、年齢、取引量をもとにセグメント化し、最も取引拡大が見込めるセグメントに対して集中的にセールスを仕掛ける。限られた人員と時間、コストのなかで最大の成果を上げるためには、できるだけ無駄な営業活動に労力をかけたくないというのが本音である。
だからこそ、銀行は顧客を「選別」することが大切なのだ。
なかには例外もあるだろう。表面的なデータでは取引拡大が望めないようなお客様であっても、後に大化けすることだってある。しかし、統計的に考えるとそれはごくわずかな例外として無視されるのである。
選ばれしVIPはどんな「特別扱い」を受けるのか?
では、銀行がVIPと判断したお客様にはどんな良いことがあるのだろうか? わざわざ銀行へ出向かなくとも、銀行員から要件をうかがいに来てくれる。銀行へ行けばいつも支店長が応接室で対応してくれる。お茶やコーヒーがでてくる……。
こうして書きながら、私なりに考えてみたのだが、銀行というところはVIPに対しても案外ケチなのだ。特別な利益がでる投資信託をこっそり売ってくれるわけでもない。新規公開株を特別に融通してくれるわけでもない。インサイダー情報をこっそり教えてくれるわけでもない。そう考えると、銀行が行っている「選別」なんて案外大したことはないのだと改めて痛感する。
「大口の客には何か特別な利益供与してるんじゃないの?」と、質問されることがある。当然「いや〜、そんなこと無いですよ」と答えるのだが、まんざら嘘ではない。銀行へ行けば、窓口に並ぶことなく応接室に通されコーヒーが出てくる。選ばれしVIPといったところでたったそれだけである。それで自尊心が満足する人もいるだろうが、よくよく考えてみると安っぽい演出だ。
いささか自虐的ではあるが、やはり銀行員は「ポリコレ棒」から逃れることはできないのだ。「今日はポリコレ棒で殴られませんように」そう祈るしかないのかも知れない。(或る銀行員)