養子,斡旋,特別養子縁組斡旋法案
(写真=PIXTA)

養子縁組斡旋(あっせん)法案が11月25日、参議院で全会一致で可決し衆議院に送られることになった。この法案は斡旋業者の許可基準としたものだが、条件として、社会福祉法人や医療法人などに限るとし営利や脱税目的としない事などを明記している。無許可で斡旋の場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金とするなど、悪質な民間業者を排除することが目的だ。

これまでの社会的養護の現状

親が亡くなったり親が子を育てられなくなったりした場合、子どもを国の責任で養育することを「社会的養護」という。だが養護の必要な約4万6000人の内9割は施設で暮らしているという現実がある。国に代わり家庭で養育する「里親」で暮らす子どもは対象の10%強にすぎないのだ。

だが海外では養子縁組により恒久的な家庭生活を営むことは国の社会的養護政策の柱となっている。日本は養子縁組のために施設や里親から措置解除され、家庭で生活をしている子どもの数は年間 303 人(2011 年度)程度に留まっている関係から大半が施設に措置されているのが現状なのである。

90%近くが施設養護で生活をする子ども達だが、2013年10月時点で見ると児童養護施設は全国に595カ所ある。赤ちゃんは乳児院という施設にいるが、その数は全国で130カ所だ。2013年3月末の時点で約3000人の赤ちゃんが育てられてはいるが、里親に委託される子どもは全体の10%強にあたる約5000人。2012年度末の時点で全体の約14.8%に留まっている。

子どもの「最善の利益」にかなう養子縁組

生む側の事情も深刻で、社会保障審議会児童部会専門委員会の報告によれば、2004~2011年度までの8年間で、心中以外の子どもの虐待死事案総数は437人。40%強は0歳の赤ちゃんで、その内の52%が生後0カ月の新生児で、その内の85%が生まれたその日に殺されている(加害者の90%は生みの母)。

さらに子どもの置き去りの数は福祉行政報告例の数字だ、と2012年度の44人となっていて、置き去りにされたが親が分かっている子どもは209人だったそうだ。

このように親に育てる意思や能力がない子どもに対し、「家族再結合」は難しい。時間を経過させるよりも、いち早く親に代わる家庭を見つける方が大切と考えられている。

養護の必要な4.6万人の内9割は施設暮らし

今回の法案は、親となる「養親」を選定する際に実親の同意を必要としている。そして実親は養子縁組の成立前なら、同意を撤回する事ができるともしている。

社会的養護を必要とする子供達が施設ではなく、家庭的な環境で健やかに育つ事は、その後の人格形成に大きく関わる問題でもある。何よりも子供達に対し国を挙げて守る施策が行われようとしている事は喜ばしい。

ここまで来るまでの道のりは決して平坦は無かった。民法が改正され特別養子縁組が盛り込まれたのは1987年にさかのぼる。発端は、宮城県の医師が1973年、戸籍に実親であるかのように出生届を偽造した事を自ら公表し、法整備を求めた事だ。

それまでの養子縁組は家制度継承の手段としての認識だった。そのため児童福祉の観点は薄かったと言わざる得ない。加えて民法が改正されても斡旋法は創設されてこなかった経緯がある。

保護を必要とする子は約4万6000人。だが現状では約9割が児童養護施設や乳児院暮らしだ。こうした子供達がより家庭的な環境で暮らせるよう国でも2011年に方針を打ち出してはいた。

そして2016年5月、児童福祉法を改正し、特別養子縁組と里親制度を重要な選択肢として明文化した(戸籍上の親子関係は結ばず、一定期間子どもを育てるやり方)。7月には検討会を立ち上げて議論を始め、このほどようやく「特別養子縁組斡旋法案」が参院通過したわけだ。

実費微収に頼らない財政支援が必要

今回の議員立法案では仲介事業は許可制とし、事業者は専門的な知識や技術に基づいて助言や支援をするよう義務づけられる。

現在、児童相談所は人手不足や養子縁組仲介の経験不足など、さまざまな問題を抱えている。仲介には、出産費用や交通費など実際にかかったお金は手数料として厚生労働省令で受け取りが認められているが、それ以外の報酬として金銭を渡すケースもあるようで、まだまだ課題は山積しているといえる。

今後は民間事業者の質の担保や行政と連携した現実的な対策、民間事業者と児童相談所の養親における費用負担の問題も解決しなければいけないだろう。あっせんの質や透明性を持たせる法律と監査機関を作る課題も残されている。(ZUU online 編集部)

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