毎年恒例の「2016年 ユーキャン新語・流行語大賞」が12月1日に発表され、年間大賞は「神ってる」に決定した。本来は今年の流行語に選ばれても不思議ではない大きな新制度の「マイナンバーカード制度」だが、流行語大賞の候補に上がらないことにさえ誰も注目されないというほどだ。まるで一発屋の持ちネタのように耳にしなくなっており、企画倒れの印象が強い。

当初の予定では2017年1月より様々な追加機能が実装され、国民ひとりひとりに無くてはならない付帯カードになるスケジュールだった。ところがニュースで報じられるのは、郵送されたカードの切り替えや、システム遅延に対して訴訟が提起されたというネガティブなニュースばかり。「マイナンバー制度のイマ」を見ていこう。

1. マイナンバーカードの現状

マイナンバーカードは、2015年の秋口から世帯ごとに12桁の番号が記載された「番号通知カード」の郵送が開始された。2016年に入り番号通知カードからICチップ付の「個人番号カード(マイナンバーカード)」への切り替えが開始するも、受け入れ期間となった行政窓口の人員不足のためか、マイナンバーカードの交付が著しく遅れた。筆者は2015年の年末にインターネットで登録申請をするも、カードが完成したという連絡を受けたのは2016年8月。なんと、8カ月の期間を要したことになる。東京都内のある区に居住している複数の友人に聞くと、筆者と同様に待たされた人も多いようだった。このあたりの待ち期間に、少しずつ雑誌やワイドショーなどでマイナンバーという言葉を聞くことが少なくなっていったように思える。

筆者は2016年2月と9月、顧客である都内の高齢者施設でマイナンバーについてのセミナー講師を務めたが、その温度差は大きく異なっていた。2月は「これからどうなるんだ」という不安感のようなものを参加者の表情や質問内容から感じたが、9月は「そういえば、あの制度いったいどうなったんだ」という、半ば「あの制度はいま!」というような振り返りの感想を受けた。

2016年も年末を迎える季節となり、再びマイナンバーが注目されている。この理由は「年末調整」そして「法定調書」だ。雇用主(一部の業務委託者)はマイナンバーを収集する必要があり、厳密な個人情報管理のため「どうすればいいのか」という問い合わせが増えていると聞く。年が明ければ、自営業や副業をしている人には「確定申告」を行う季節が到来する。ここで再び、マイナンバーはよく聞く言葉になるだろう。

2. 健康保険証としての使用開始予定は2017年

マイナンバー制度導入当初、2017年には各人の税金納付状況がインターネット上でわかる「マイナポータル」が稼働する予定だった。また、この前後にはマイナンバーカードでも健康保険証として使用できるといわれ、番号通知カードからマイナンバーカードへの変更希望者も急増すると目されていた。ところが2016年12月現在、告知期間を十分にとらなければいけないはずの健康保険も、マイナポータルもまったくと言っていいほど告知が進んでおらず、年明けの予定通りのスタートはほぼ不可能に近いといえる。

3. マイナンバーと健康保険が一緒にならないことのデメリット

健康保険証に限っていうと、あくまでマイナンバーカードを「健康保険証としても」使えるということであり、これまでの健康保険証が使用停止になるのは当面先と予定されていた。そのため、「なにもなかった」として、従来の健康保険証が引き続き医療機関でやり取りされることになるだろう。

4. マイナンバー制度の今後の展望

それではマイナンバー制度は今後どうなっていくのか。国民ひとりひとりに番号を交付するのは国の長年の悲願であり、今後もマイナンバーカードを浸透していくために、様々な施策が打ち出されていくことだろう。現時点の導入率は5%と、約10年前に声高に導入が叫ばれ、次第に沈静化した「住基カード」を彷彿とさせる導入率の低さ。一部の民間企業からは、Fintechなど先進的な技術を活用した根本的なサービスに変えた方がいいのでは、という意見さえ出ているほどだ。

このような国をあげての導入時に、大きな問題になるのは情報リテラシーの差。現役世代はインターネット等を通じて、マイナンバーをめぐる様々なニュースに触れる機会が多い。その一方で筆者がセミナー講師を行う高齢者施設では「何か動きがあったようだがよくわからない」という声が増えて、それが集まると再びマイナンバー制度の導入が遅れるという悪循環が起きる。そのような情報リテラシー格差を失くすことまではできなくても、縮めていくのも、マイナンバー制度のひとつの役割といえるだろう。

工藤 崇(くどう たかし)
FP-MYS代表取締役社長兼CEO。ファイナンシャルプランニング(FP)を通じ、Fintech領域のリテラシーを向上させたい個人や、FP領域を活用してFintechビジネスを検討する法人のアドバイザーやプロダクト支援に携わる。Fintechベンチャー集積拠点Finolab(フィノラボ)入居。執筆実績多数。

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