米銀大手のゴールドマンサックスが2017年の10大金融テーマを発表した。ゴールドマンのチーフ・クレジットストラテジストのチャールズ・ヒンメルバーク氏によると、2017年は「高成長、高リスク、リターンの若干の向上」が期待できる年になるとのことだ。ただ、2017年の金融市場はトランプ次期大統領の政策に大きく左右されそうだ。
実際、ゴールドマンが選ぶ10大テーマのほとんどはトランプ氏の政策に関係するものとなっている。ではさっそくゴールドマンが選んだ2017年の10テーマを見ていこう。
1. リターンの若干の向上 日本を除くアジア株式で10%超
ゴールドマンは2017年に金融市場から得られるリターンが若干向上すると見込んでいる。2016年の金融市場は世界的な利回り低下やブレグジットなど予想外のイベントを受けて難しい運用環境であった。2017年は依然として低水準ながらリターンの若干の向上をゴールドマンは予想しており、株式市場で有望なのは日本を除くアジア株式で10%超のリターンを見込んでいる。
2. 米財政政策が経済成長を押し上げ
トランプ氏は大規模なインフラ投資計画や減税など積極的な財政政策を打ち出す方針を示している。世界的な低成長環境が続く中、トランプ氏の成長を重視した政策は経済成長を押し上げることが見込まれ、議会も財政刺激を了承する可能性が高いとゴールドマンは見込んでいるようだ。経済成長が加速すれば、株式市場にとってもポジティブなニュースになるだろう。
3. 利上げペースの拡大
すでに市場は12月の利上げを織り込みに入っておりドル高の要因となっているが、トランプ次期大統領が積極的な財政政策を示唆していることから、財政政策の規模によってはFRBは更に積極的な利上げ対応を迫られるかもしれないとゴールドマンは予想する。景気拡大にともなって利上げ傾向になるイエレン・コールに加えてトランプ氏の財政政策が米金融政策に大きなインパクトを与えることになるだろう。
4. クレジット市場はおだやかな状況が続く
2016年の債券などのクレジット市場は商品価格の下落を受けて商品に関係する分野では痛手を受けたものの、それ以外の分野に影響が拡大することはなかった。ゴールドマンは同じような状況が2017年も続くと予想しており、クレジット市場は2017年もおだやかな状態であろうと見込んでいる。
5. 貿易戦争に対する懸念は行き過ぎ
トランプ氏は中国などから輸入される製品に対して高い関税を課すと発言するなど保護主義的な貿易政策を選挙中に提唱していたことから、貿易戦争による経済の下振れリスクが懸念されているがこれは行き過ぎだろうとゴールドマンは見ている。既存の貿易協定の現実的な見直しなどが想定されるが、トランプ氏の対応は現実的なものになり貿易戦争になるような事態は起きない公算が大きいとしている。
6. 人民元安は継続 貿易リスクに備えヘッジを
中国政府は管理された人民元安を容認している。ゴールドマンは人民元安が2017年も継続するとみており、今後12ヵ月で1ドル=7.30元までの下落を予想している。また、トランプ氏の貿易政策で市場が混乱するトランプ貿易タントラム(タントラムとは金融政策の変更などにより、通貨や株価が下落するなど市場が動揺すること)の可能性もあることから、人民元に関してヘッジすることを提案している。
7. トランプ氏当選による新興国市場の下落は一時的
トランプ氏当選後、米長期金利の急上昇や関税など保護主義的な貿易政策を懸念して新興国市場は下落した。しかし、これは一時的な現象だとゴールドマンは予想しているようだ。過去に米国の高成長とともに金利が上昇した時は、新興国市場にとっては追い風となったと述べている。
8. 企業の売上高は改善を見込む
近年は企業の売上高が伸び悩むケースが散見されたが、2017年は企業の売上高の伸び悩みが改善するだろうとゴールドマンは見込んでいる。世界経済が底堅さを示しており、原油価格も回復傾向にあることから増収率見通しが改善したことが背景としている。その結果、S&P500種銘柄の営業ベース1株利益は10%増加すると見込んでいる。
9. インフレ率は先進国全般で上昇
トランプ氏は減税やインフラ投資を打ち出していることからインフレを加速させる大統領として見られており、市場の期待インフレ率は急上昇した。米国だけではなく、現在低インフレ状態の欧州や日本も公共投資を増やし、インフレ圧力が高まるとゴールドマンは予想する。インフレ率が高水準に達した場合でも、長年低インフレ状態にあったこれらの国々は高いインフレ率を黙認するとゴールドマンは見込んでいるようだ。
10. 金融政策は信用創造に向けた措置にシフト
日銀が導入した長短金利操作の措置は新たな金融政策への試金石だとゴールドマンは見ている。銀行の金融仲介コストに焦点をあてた金融政策は投資を中心とした実体経済に大きなインパクトを与え、マイナス金利や量的緩和による悪影響の緩和にも役立つだろうと見込んでいる。(アナリスト 樟葉空)
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