休眠預金活用法,カジノ法案
(写真=Thinkstock/Getty Images)

預金が没収されるの?ーー銀行員である私はここ数日、周囲の人からそんな質問を受けている。ことの発端は「休眠預金活用法」の成立である。

休眠預金を活用できないかという議論は以前からあったが、その議論が盛り上がることもなく、いつのまにかこんな法律が成立したのだ。新聞等のメディアはカジノ法案について様々な角度から論じているものの、「休眠預金活用法」の是非について言及しているところは少ない。

それどころか「休眠預金が銀行の収入になっている」とまるで銀行を悪者扱いするメディアさえある。これは、銀行員として黙ってはいられない。

銀行は休眠預金をネコババしている?

「ねえ、大変! このお金、使えなくなるわよ」帰宅するやいなや妻は私に何冊もの普通預金通帳を差し出した。藪から棒に何を言い出すのかと思いきや、休眠預金活用法の成立に関するニュースで動揺しているようだ。

「何、馬鹿なことを言ってるんだ。預金封鎖じゃあるまいし、今の日本で銀行預金が下ろせなくなるなんて、そんなことが起こるわけないじゃないか」
「だって、テレビで10年以上使っていない預金は没収されるって!」

これは完全に誤解である。
妻に限らず、私はこの数日少なからずの人から同様の質問を受けた。実は私の妻も元銀行員だ。元銀行員にしてこの程度の認識である。まして、金融に興味がない人や高齢者がこのニュースをどのように解釈するかと想像すると恐ろしくなる。

折しもインドでは偽札対策などとして高額紙幣が廃止されたが、あまりに唐突で十分な情報提供も行われなかったことから、タンス預金が無駄になると誤解した女性が自殺するという事件も発生している。インドの事件は他人事ではない。

そもそも、休眠口座の活用については国民的な議論が盛り上がっていたわけでもない。にもかかわらず、こっそりとこんな法律が成立したことに私は怒りを覚える。

それ以上に酷いのがメディアの報道姿勢だ。どの新聞も「カジノ法案」の可決を大きく伝えていたが、「休眠預金活用法」の是非について言及しているところは皆無に等しい。日本を代表する経済新聞も完全にスルーを決め込んでいる。

ある新聞のデジタル版では「いまは残高が1万円未満であれば金融機関の収入となる」と伝えているところまである。休眠口座が銀行の収入になっているなんて、まるで預金をネコババしていると言わんばかりではないか。

何があっても預金は預金者のものである

もちろん、銀行が休眠預金をネコババしているなどと言うのは完全に誤解である。

預金者が銀行に預けているお金は、銀行の決算書では負債に計上される。ただし、実際に休眠預金が発生した場合は、全国銀行協会などの内規によって、会計上は「雑益」として扱われ、銀行の利益として計上されることになっているのだ。

「やはり、銀行は休眠口座をネコババしているじゃないか!」

そんな声が聞こえてきそうだが、あくまでこれは会計上の処理であり、預金者はいつでも預金を引き出すことが可能だ。新聞が書いているように「金融機関の収入となる」のは事実である。しかし、あくまで会計上の処理で「いつでも預金を引き出すことができる」のだ。多くのメディアがそのことに触れようとしない点に、私は強烈な違和感を覚える。