5月に行われたインド総選挙で、10年ぶりの政権交代が実現し、モディ新政権が発足しました。新政権の発足により内外投資家の期待が高まる様は、まるで2012年12月の安部内閣発足による「アベノミクス」で、株式市場の急上昇が起こった日本と似ています。本稿では、インドの「モディノミクス」が第2の「アベノミクス」となりうるか、また、インド関連日本企業への投資とインド株式市場の投資のどちらが有望かを分析して参ります。
①インド総選挙結果。モディ新政権の概要
2014年5月のインド下院総選挙(定数545)では、従来最大野党であったインド人民党(BJP)は過半数の273議席を超える282議席(+166)を獲得し圧勝したのに対し、従来の与党であった国民会議は44議席(-162)となり、政権交代が実現しました。インドの国会は上院と下院の二院制ですが、下院第1党のリーダーが首相になります。
今回の政権交代が起きた第一の要因は経済成長への有権者の期待です。表1のようにインドのGDP成長率は停滞しており、また、貧困から抜け出すことは容易ではありません。更に、前政権の国民会議時代に多発した汚職の追放等への期待も政権交代の要因と考えられます。海外企業の進出時に官僚や地元有力者への賄賂が必要とされているインドで、モディ首相はクジャラート州知事時代には賄賂によらない進出方法を確立し、親族も質素な住まいに住み、近親者を要職に就かせない等の方策を取っていることから、クリーンなイメージを確立しています。経済成長への期待とクリーンさが今回の政権交代の主因と考えられます。
②インド経済と株式市場:リーマンショック後は停滞
インド経済は停滞しています。インドのGDP成長率はリーマンショック前及び2009年、2010年は8-10%前後でしたが、2013年は4.35%となり、中国と比べ下落が目立ちます。一人当たりGDP(名目:USDベース)ではインドはここ5年でほぼ横ばいなのに対し、中国は70%程度の成長を遂げております。このような停滞する経済からの脱却が、クジャラート州知事時代に経済改革を行って成功を収めたモディ首相への期待となって現れているものと考えられます。
表1 インドと中国のGDP成長率推移 (単位:%)
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2010
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2011
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2012
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2013
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2014※
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インド
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10.3
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6.6
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4.7
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4.3
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5.4
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中国
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10.5
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9.3
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7.7
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7.7
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7.5
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表2 インドと中国の一人あたり名目GDPの推移(単位:USD)
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2010
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2011
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2012
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2013
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2014※
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インド
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1,430
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1,553
|
1,515
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1,505
|
1,584
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中国
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4,423
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5,434
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6,077
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6,747
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7,333
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出典:IMFデータより筆者作成 ※ 2014年は予測値
また、株式市場も停滞しております。表3はインド株式市場の代表的な指数であるSENSEXを2009年12月末の終値を100としてダウ、日経平均と比較した表です。2010年以降の成長率の停滞によりアメリカダウ平均との差がつき、2013年ではアベノミクスの恩恵により大幅に上昇した日経平均に対しても上昇率が劣るようになりました。
表3 SENSEX、ダウ、日経平均の推移
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2009
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2010
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2011
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2012
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2013
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SENSEX
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100
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117
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88
|
111
|
121
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ダウ
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100
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111
|
117
|
126
|
159
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日経平均
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100
|
97
|
80
|
99
|
154
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出典:各株式市場のHPから筆者作成。
数値:12月末の終値ベースで2009年を100とした指数換算