③停滞から成長への公約
モディ新政権は停滞する経済を成長へ結び付けるために、どのような政策を打ち出そうとしているのでしょうか?今回の選挙に当たって、インド人民党(BJP)は経済面ではGDP2ケタ成長への回帰を目指し、以下の公約を掲げています。
【規制緩和に関する諸政策】
l 税制改革、国内及び海外企業による投資に関するポリシーの見直し、銀行再編の実施
【産業の育成】
l 小売業の外資参入については解放の方向だが中小企業の権益は守る
l 農業での生産性向上のための諸政策
l 製造業では、世界のハブを目指すための投資を実施。ビジネスを行う際の煩雑な手続きを簡素化
【インフラの整備】
l 港湾及びハイウエー、鉄道の整備(特に鉄道に重点)
出典:インド人民党マニフェストより
これらは、①規制緩和 ②投資の促進を含む産業育成 ③インフラ整備の3つの方向性にあると言えるでしょう。公約で解決をうたっている政策は従来からインドコスト、インドリスクといわれてきたものであり、これらの政策がすべて実現できれば、GDP2ケタ成長への回帰は可能であると筆者は考えます。しかしながら、従来の国民会議政権時代は、「決められない政治」とインドの政治は言われています。モディ首相もクジャラート州知事時代には経済面での成功を収めましたが、規模が数段大きい国政で実施できるかは未知数です。インド経済成長のカギは政策の実行力にあると言えます。
④停滞から成長へ~株式・為替市場の期待~
株式市場、為替市場はインドの新政権の発足を歓迎しています。インド株式市場指数(SENSEX)は6月6日に25,419をつけ、過去最高位を更新しています。2012年5月の株価上昇率は8.03%となり、ダウの0.8%、日経平均の2.3%と比べると大幅な上昇となっております。また、為替レートについても総選挙前では1ドル/60ルピー前後だったのが、5月下旬には一時1ドル/58ルピーをつけるなど、ルピー高が進行しています。このように、株式・為替市場においては、インド経済がこれから改善し、成長が加速すると見ていると考えられます。
⑤成長から飛躍への必要条件
では、インド経済が成長から飛躍へと結びつけるためには、何が必要でしょうか?筆者は以下3点が重要であると考えます。この3点は、アベノミクスが成功するための必要条件と同じであると筆者は考えています。
i. 政権公約の着実な実施
ii. 周辺国との良好な関係
iii. 中央銀行との良好な関係
政権公約の着実な実施については、先に述べてように成長率を引き上げるための必須条件となります。この点において、インド人民党(BJP)で単独過半数を獲得できたのは、政権公約の実行を推進する要件が整ったと言えるでしょう。あとは多民族国家であるインドで民族間の利害対立をどうコントロールするかです。この点では、モディ新政権は右派であり、支持母体にヒンズー至上主義をうたっている民族義勇団(RSS)があることから、支持母体からの圧力をうまくかわして政策を実行することが肝要と思われます。
周辺国との良好な関係についても、モディ氏に対して入国ビザ発給停止を行っていた米国、EUが発給方向に動いており、各国が歓迎及び関係改善の意向を示しているなど、現在は追い風が吹いています。具体的な外交問題が起こる前に、関係改善の具体的な成果を出したいところです。
また、中央銀行との良好な関係を築くことでインフレをコントロールすることがインドの経済成長にとって重要です。下記グラフで分かるように、インドの物価は2014年に入り上昇傾向にあり通貨ルピーも上昇しています。インドのインフレターゲットは8%に設定されていますが、4月のCPI上昇率(前期比)は8.6%となり、ターゲットを超えております。2013年後半の政策金利とCPI上昇率の関係を見ると、インド中央銀行が更なる政策金利の引き上げを行って物価抑制を図ることが考えられます。政策金利の引き上げは通貨高及び金融引き締め方向に動き、経済成長を標榜するモディ新政権にとってマイナスとなる可能性があります。