いまから1年前、「2016年の原油価格の見通し」は弱気に大きく傾いていた。筆者はもちろん、ウォール街の市場関係者の多くが弱気のシナリオを描いていた。しかし、原油価格は年初こそ急落したものの、その後はV字回復となったのは周知の通りである。この年末は前年水準を大きく上回るとともに、年初来の高値圏で新年を迎えそうな情勢だ。
問題は2017年の見通しであるが、ウォール街ではOPEC(石油輸出国機構)を始めとする主要産油国の減産合意を素直に受け止めるムードもあり、「やや強気派が優勢」のように感じられる。果たして期待通りの展開となるのか? 「2017年の原油市場」を展望してみたい。
なぜ、計算が合わないのか? OPEC減産は本当に可能か
OPECによると、世界の原油需給は2017年後半に均衡する見通しである。2017年のOPEC産原油の需要が3260万バレル(日量、以下同)と予想される一方で、OPECが生産量を3250万バレルに制限することで合意しているからだ。
しかし、この計算は非常に怪しい。
OPECは11月30日の総会で、2017年1月より2016年10月の生産量から日量120万バレル程度減産し、同3250万バレルに引き下げるとした。だが、公表された数字をどう計算してもこの数字にはならない。
OPECが減産基準としている生産量には国内事情が考慮されてインドネシア、リビア、ナイジェリアの3カ国が除外されている。3カ国を除いた合計は3124万バレル。この3124万バレルに除外された3カ国の10月の生産量を加えると3414万バレルとなり、減産量の116万バレルを差し引くと、3298万バレルとなる。
計算が合わないのは、アンゴラの基準値が175万バレルと9月の数字となっており、10月の157万バレルを大きく上回っていること。そしてイランの基準値が398万バレルと10月の371万バレルを大きく上回っていることが主な要因だ。
イランの基準値(398万バレル)は9万バレルの増産が認められたにもかかわらず、1月からの生産量が380万バレルとなっていることも不可思議だ。イランは生産枠として400万バレルを求めていたので、1月は10月比9万バレル増の380万バレルでスタートし、その後400万バレルまでの増産を容認するのかも知れない。
イランを380万バレルで固定し、減産を除外された3カ国の生産量を10月から据え置いたとしても、合計は3271万バレルとなるので、3260万バレルの需要を上回る計算だ。
適用が除外された3カ国はいずれも生産量が回復途上にあり、今後はさらに拡大する可能が高い。イランが400万バレルまで増産した場合は供給過剰はさらに拡大する。
それでなくとも、過去の減産合意の経験から各国の減産遵守には懐疑的な声が少なくない。非OPECが本当に協調するのかも不透明である。
懸念材料は色々とあるが、需給見通しで最も注意すべき点は、そもそも今回の減産合意では「1月からOPECの生産量が3250万バレルに制限される計算にはならない」ことだ。約120万バレルの減産を実施したとしても、OPECの生産量が需給均衡に向かう水準に達していない点を警戒しておくべきだろう。
減産合意の背景に「トランプ政権の誕生」あり?
主要産油国は今年2月、原油価格の急落を受けて「増産凍結」で暫定合意したものの、サウジアラビアとイランの対立により4月には物別れに終わった。
今回の減産合意に関しても、イランは減産に応じないとの見方から事前予想では合意に否定的な見方も多く、減産合意はむしろサプライズに近かった。
なぜ4月にできなかったことが11月にはできたのか。なぜイランの「増産」をサウジは受け入れたのかは素朴な疑問として残る。
このナゾを解く鍵は、4月にはなくて11月にはあったもの、かつイランとサウジの関係に影響があるものとなる。そう、それは「トランプ政権の誕生」だ。