米国とサウジは再び蜜月関係へ

1971年にブレトンウッズ体制が崩壊し、金・ドル本位制は原油・ドル本位制へと移行することになるが、この背後には「リヤド密約」があったとされている。すなわち、米国はサウジアラビアの安全を保証する変わりに、サウジは石油代金をドルで受け取り、原油を安定的に供給するというものだ。

かつては蜜月だった米サウジの関係も、オバマ政権ではサウジへの武器輸出を制限する法案が提出されるほどまで冷え切っていた(注:法案は共和党の反対で否決されている)。

しかし、トランプ政権の誕生で現在の「冷たい」関係は再び「蜜月」となる公算が大きい。

現在、サウジアラビアとイランはイエメンを舞台に代理戦争の真っ只中にある。トランプ次期政権は親イスラエルであり、イランに対しては強硬姿勢で臨んでいることから「敵の敵は味方」となる。

イランと米国を含む6カ国は昨年7月に核合意し、今年1月からは経済制裁が解除されている。この経済制裁の解除により、イランからの原油輸出が増加したことも原油急落の背景にある。

トランプ氏はイランとの核合意を破棄することを公約としており、新たな経済制裁を検討中である。米国がイランへの経済制裁を再び強めるのであれば、サウジはイランと「減産」で合意する必要はないと考えても不思議ではない。

シェール企業とサウジを結ぶ「点と線」

トランプ氏は次期政権でのエネルギー長官に前テキサス州知事のリック・ペリー氏を起用する方針だ。

テキサス州は言わずと知れたシェール企業の牙城である。

さらに、次期国務長官には石油メジャー、エクソンモービルの会長兼CEOであるティラーソン氏を指名しており、テキサスとサウジを結ぶ橋渡しも万全である。

トランプ氏はエネルギーの自立を政策の柱に掲げているが、米国内の原油生産量は原油価格の下落を受けて低下しており、関連する雇用も減少した。米国内で雇用を創出し、エネルギーの自立を目指すのであれば、価格はある程度上昇する必要がある。トランプ次期政権にとって、価格はむしろ上昇したほうが政策目標は達成しやすいと言える。

米国内ではリグ稼動数が増加しているものの、シェールオイルの生産量は微増に留まっている。シェール企業にとっても原油安は頭痛の種であり、価格の反落を恐れて増産には慎重となっている様子だ。また、利益を確保するためには価格の上昇がまだ不十分で、増産には55~65ドルが必要との見方もある。

サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は12月10日、「米シェール企業が来年、供給面で大規模な反応を示すとは予想していない」と述べている。ファリハ氏が何の根拠もなく期待だけで発言しているとは考えづらい。

トランプ新政権の誕生、シェール企業の慎重な増産姿勢、イラン増産でもOPECが減産合意という流れを踏まえると、サウジはシェール企業から「価格が値崩れするような増産をするつもりはない」といったメッセージを何らかの形で受け取っているのかも知れない。

コアレンジは40~60ドル、上下どちらにもリスクを内包

原油価格は今年4月から11月のOPEC減産合意まではおおむね40~50ドルのレンジ内を推移しており、下値の目途は40ドルと考えて問題なさそうだ。一方、OPECが目標価格を55~60ドルと設定しているので、上値目処は60ドルが妥当であろう。

したがって、2017年の原油価格は40~60ドルのレンジを中心とした動きが予想され、ここがベースラインとなるが、上下どちらにもリスクがあり、注意が必要だ。

まず、下方リスクはOPECが減産を遵守しないことである。数字で確認できるのは「2月」となるが、恐らく、期待された数字にはならず、需給の均衡見通しは2018年以降にずれ込むことになりそうだ。この場合、一時的には40ドルを割り込む場面も想定される。ただし、これまで同様、40ドルを割り込めば追加減産などの「口先介入」などで相場は下げ止まることになるだろう。

また、シェール企業の増産が加速することもリスクとして残されている。サウジアラビアの見込みが外れ、米生産が急速に回復し価格が弱含むようだと、OPECとシェール企業が再びシェア争いに戻り、下値を模索する可能性がある。

上方リスクは米国の対イラン政策となる。経済制裁となれば、イランからの供給減で需給均衡が前倒しとなるかも知れない。また、トランプ政権の中東への関与が中東情勢を緊迫化させ、短期的に価格の上昇を招く恐れもある。

米シェールオイルの増産ペースが需要の増加ペース並みとなり、歩調を合わせてサウジも増産を見送るなどした場合、テキサスとサウジの暗黙の了解が予想外に需給改善ペースを速める可能性がある。2017年のうちに需給が均衡するとの見方が強まれば、年後半の中心レンジが60ドルを超えてくるかも知れない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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