ドル円相場は、米大統領選挙前に1ドル=100円台前半で推移していたが、「トランプラリー」で一気に円安が進み、12月中旬には118円台まで下落、120円の節目を視野に入れている。

今後の見通しについてはウォール街でも意見が分かれており、「トランプ相場が継続し120円は通過点」との見方がある一方で、「期待が先行しており、ドル高の賞味期限は短いのではないか」との声も聞かれる。

そこで今回は「2017年のドル円相場」を展望してみたい。ポイントはFRBの金融政策とトランプ新政権の通貨政策となるが、トランプ氏が「アメリカ・ファースト」を掲げている以上、ドル安リスクを警戒すべきであろう。

ドル高の原動力は金利の上昇

大統領選挙でトランプ氏が勝利して以降、急速にドル高が進んでいるが、その原動力となっているのは「金利の上昇」である。

FRBが公表しているドルインデックス(対広域通貨)をみると、大統領選から12月9日までの1カ月間でドルは3.5%上昇している。12月11日の週では1ユーロ=1.03ドル台、1ドル=118円台までドル高が進み、大統領選後にそれぞれ6%、13%上昇した。

米金利の動きをみると、12月15日現在の米2年債利回りは1.3%、10年債利回りは2.6%となっており、選挙前の0.8%、1.8%と比べそれぞれ0.5%ポイント、0.8%ポイント上昇している。

トランプ次期政権が打ち出している減税や財政支出の拡大などの経済政策がインフレ率を高めるとの見方があり、その影響で「FRBも利上げを急ぐかも知れない」との観測が、金利上昇を招いている可能性が高い。

FRBの金融政策は昨年の二の舞も

FRBは12月のFOMCで1年ぶりに利上げを実施し、2017年の金利見通しも引き上げた。

ウォール街の関係者からは「FRBが利上げを継続する限り、ドル高は止まらない」との意見も多く聞かれる。

FRBは、米経済は利上げに耐えられると考えているが、これは1年前の利上げ開始時と同じだ。昨年12月時点では「2016年中に4回の利上げ」を見込んでいたが、ドル高の進行を受けて政策スタンスがハト派に転じ、今年12月にようやく追加利上げにこぎつけている。

今回も金利上昇とドル高の影響で中国やブラジル、インドなどの主要新興国への悪影響も懸念されている。

利上げ前後の状況は昨年とほぼ同じと言って良い。昨年同様、米国を始めとする世界経済が失速し、来年の利上げペースは鈍化を余儀されることになるかも知れない。

トランプ政権でドル高は「国益」か?

トランプノミクスが「レーガノミクスの再来」と受け止められていることから、通貨政策はドル高政策との見方が少なくない。

また、次期政権での財務長官にゴールドマン・サックス出身のスティーブン・ムニューチン氏が指名され、さらに国家経済会議(NEC)委員長にゴールドマンの社長兼最高執行責任者(COO)のゲーリー・コーン氏が登用されたことで、経済運営の主要ポストを金融機関出身者が占めることになった。

「ドル高は国益」とはクリントン政権でのルービン財務長官の決めゼリフでもあったが、金融機関出身の財務長官は国際資本市場での資金調達がより容易となることから、ドル高を好む傾向があるとされている。

こうしたことから、トランプ政権はドル高志向と見られがちだ。しかし、筆者はトランプ氏本人が「ドル高を国益」と考えているかは少なからず疑問を抱いている。