トランプ政権、FRBとの対立が鮮明化する恐れ
トランプ次期政権の外交政策の基本は米国の利益を優先させる「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」である。トランプ氏は選挙戦中、「利上げしてドル高になれば大問題」と主張していたが、現在はまさに大問題が発生していることになる。
しかし、FRBはトランプ次期大統領をあざ笑うかのように利上げを実施しており、今後も利上げを継続するのであれば、トランプ政権との対立を鮮明にすることになりそうだ。
トランプ政権の移行チームは就任から3カ月以内に現在空席となっている2名のFRB理事を指名するとしており、「政権の意向に沿う人材」が送り込まれる点にも留意したい。
インフレ懸念はFRBが指摘するほどではない?
FRBは今回の利上げの判断材料として、期待インフレ率の上昇を挙げている。期待インフレ率の上昇は、実際のインフレ率の上昇につながると考えられている。しかし、一方でかなり不確実な側面もある。
消費者は価格が上がったことは覚えているが、価格が下がったことは忘れがちである。このため「消費者感覚」では過去のインフレ率は公式の物価統計よりも高くなる傾向にある。さらに、消費者は将来の物価を過去と同様に考える傾向にあることから、将来の物価見通しも足もとの物価水準よりも高くなる傾向にある。結局のところ、消費者の期待インフレ率が実際の物価に影響を与えるのかどうかは良く分かっていない。
実際のインフレ率の動きを確認してみると、CPI(消費者物価指数)は原油価格の上昇で指数全体が上向いてはいるものの、食品とエネルギーを除くコア指数は横ばいで推移しており、「加速感」はない。
賃金の伸びも鈍化しており、「期待」以外でのインフレ懸念は小さいと言えるだろう。
注目される「為替操作国」の認定
トランプ氏は大統領就任の初日に中国を「為替操作国」に認定すると公約していることから、来年1月20日の大統領就任式で本当に認定するのかも注目したい。
実際のところ、中国は成長鈍化、住宅バブルの崩壊懸念などを背景とした資本の流出に頭を痛めており、人民元安に歯止めをかけるために人民元買い・ドル売りの市場介入を行っている。為替市場に介入して為替レートを人為的に操作しているとの認識は正しいが、人民元を安く誘導しているわけではない。
11月末の中国の外貨準備高は3兆516億ドルと前月から691億ドル減少した。2014年に約4兆ドルまで増加していたが、3兆ドル割れも時間の問題となっている。10月末の中国の米国債保有残高は1兆1157億ドルで前月から413億ドル減少し、日本に抜かれて1位の座から転落している。
10月の米為替報告書では、中国と並んで日本やドイツなど6カ国・地域が為替監視リストに指定されている。為替操作国の認定には3つの基準が設けられているが、中国を認定するのであれば、これまでの基準は変更されることになるだろう。
つまり、中国が「為替操作国」に認定されるのであれば、日本やドイツも認定されてもおかしくはないということだ。
為替操作国に認定された場合、関税などによる経済制裁措置が見込まれており、中国を始めとする世界経済の混乱を招くかも知れない。加えて、中国が為替操作国に認定され、その影響で介入を見送った場合には人民元安に拍車がかかり、金融市場が混乱する可能性もある。
2017年のレンジは95~125円、円安の限界は「黒田ライン」か?
ドル円は既に120円を視野に入れており、円安の限界として意識されるのは125円の「黒田ライン」となる。黒田総裁の言葉を借りるなら、「ここからさらに円安が進むことはありそうにない」ということだ。
10月の米為替報告書では、IMFが推計する実質実効レートで見て、2015年の円は対ドルで割安であったが、2016年の年央はファンダメンタルズと整合的としている。つまり、名目レートでは120円は割安であり、100円近辺が適正と判断されているということだ。
こうした状況を踏まえると、2017年のドル円レートは「95~125円」を中心としたレンジで推移すると予想される。
円高リスクとして最も警戒されるのは、トランプ新政権の通貨政策であり、就任早々にもドル安志向が表面化する恐れがある。レーガノミクスになぞるのであれば、「いきなりプラザ合意が来る」イメージであり、円高への揺り戻しには十分な警戒が必要であろう。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)
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