銀行セクターに久々の"春"の訪れ:年央以降、規制の落ち着きと金利底打ちの相乗効果
◆2017年央以降、短期金利底打ちが意識される
年後半からは18年4月任期満了の日銀黒田総裁後の金融政策が焦点になる。円安が続く限りマイナス金利深掘りのリスクも低く、むしろ、年末以降は、ポスト黒田総裁の出口戦略の議論が徐々に活発化するだろう。
銀行株価の長期金利との相関関係は高い。しかし、長期金利の上昇だけだと、収益への恩恵は極めて限定的である。むしろ、貸出のベースとなる短期金利(主にTibor)の上昇が収益強化のためには重要である。
図表4の通り、過去15年間でTiborが安定的に上昇したのは、2005年の景気回復期だけである。この際は、長期金利の上昇もあって、実際にTiborが上昇し始める約1年前から株価は上昇し始めた。
現時点ではTiborに上昇の兆しは見えない。しかし、長期金利の上昇やLiborの底打ちから、仮に、Tiborが来年央以降にわずか1bpでも上昇すれば、将来への期待と、株価純資産倍率0.7倍という現在の低水準の株価から上昇余地は大きい。なお、Tiborが10bp上昇すると大手行全体で1,000億円の増益となる計算である。過去には約1年で70bp上昇したこともある。その半分の20~30bpの上昇でも、計算上は2,000~3,000億円=今期会社計画税前利益の1割の増益要因となりうる。
◆規制厳格化の流れも落ち着き
リーマン・ショック後の8年間は、金融規制の厳格化が続いていたため、いくら金融緩和を行っても、結局金融機関は保守的にならざるを得なかった。しかし、2017年は大きく潮目が変わる。年初に規制資本比率の分母に当るリスクアセット計算厳格化が最終決定し、09年以降連綿と続いてきたバーゼル3資本規制がほぼ終結する。1月の決定自体は大手行の資本比率を1~2%ポイント程度悪化させ、元の比率に戻すのに2~3年を要することになりうるが、この規制が発表されれば、世界の金融機関は、当面、更なる規制厳格化の恐怖に身構える必要がなくなる。
国内の金利も横ばいから徐々に上昇に向かい、かつ、規制強化も終結する来年、特に4月以降は、金融セクターに10年ぶりの「春」が訪れるだろう。
金融環境から考える注目のサブセクターは大手行。国内利鞘の低下ペースが和らぐことに加え、海外業務の拡大、為替効果(10円円安になると業務純益が200~300億円押し上げ)が期待される。半面、地方経済に明るさが出始めたものの、依然として資金利益がプラスに転じるには時間がかかる。なお、リース、住宅関連は、昨年までの不動産価格の上昇や金利低下の落ち着きから足踏みに向かう可能性がある。
金融市場のリスク要因:海外の動きは一時的に「リスクオフ」を促すが、大きな流れは「リスクオン」
周知の通り、2017年は、欧州の選挙が集中する。国民投票を終えたイタリアの総選挙説もあり、3月にはオランダ、これに4月~6月のフランス大統領選挙と総選挙、9月のドイツの総選挙が続く。右派が勢力を増し、保護主義的な傾向が強まる可能性もある。イタリアや英国の金融機関の財務は依然として脆弱であり、最終処理が課題だ。また、米国の財政リスクが強く意識されれば、過度な市場金利上昇に繋がるというリスクもある。
これらのリスクが表面化した場合、一時的な「リスクオフ」で円高に向かう可能性もある。しかし、来年の金融環境や日本企業のファンダメンタルズの回復という大きな流れから、これらはいずれも短期的な後退に留まるだろう。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券
チーフ・アナリスト
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