要旨

  • 11月8日、インド政府が高額紙幣の刷新に踏み切った。発表から4時間後に廃貨となった旧500ルピー札と旧1000ルピー札は貨幣の86%を占める。しかし、あまりに突然すぎる実施のために新紙幣の流通が遅れて銀行やATMの前には長い行列ができるなど国中が大混乱に陥った。
  • 経済面では、短期的には現金不足による消費の落ち込み、仕入れや賃金の支払いに窮して生産活動が停止するなど景気の落ち込みは避けられない状況だ。しかし、その後はペントアップデマンドで消費が高い伸びを示し、徐々に本来の水準に落ち着いていくだろう。もっとも地下経済対策の影響で不動産など高額取引は引き続き弱含むだろう。
  • 紙幣刷新によるメリットはブラックマネー対策であり、不正所得の捕捉による一時的な税収増、また長期的にも犯罪・テロの抑制、汚職是正がビジネス環境の改善にも繋がるものとみられる。また廃貨のショックが現金文化からの脱却に寄与し、銀行貸出の増加や電子決済の普及を促す効果も期待される。結果、今回の紙幣刷新は、短期的には景気の下振れに繋がるものの、その後は長期に渡ってプラスの影響が上回ると考えられる。
  • 紙幣刷新の手法としては計画的に廃貨を進めることで景気の下振れをなくしつつ、メリットを現金文化の脱却に絞って享受した方が良かったように思えるが、国民の反応は概ね良好だ。自身の経済的困窮よりも不正所得で潤う悪人に大打撃を与えたという痛快さが上回ったためであろう。しかし、国民感情は一ヵ月程度の現金不足に耐えたとしても、現在広がる経済への悪影響が認識されるなかで支持率が低下する可能性もあるだろう。来春の州議会選挙までに国民感情がどう変化するか注目すべきポイントだ。