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(写真=ZUU online編集部)

毎年、新春にその年の展望を公開しているSBIホールディングスの北尾吉孝・代表取締役執行役員社長。昨年はトランプ大統領の誕生を早くから確信し、グループでは備えていたと言う。北尾氏は果たして、2017年をどのような年になると見ているのか。注力しているフィンテック分野についても聞いた。(聞き手:濱田 優 ZUU online編集長)

※本インタビューは12月15日に行われました。

「トランプ・リスク」は昨年の年初に指摘していた

――まず2016年を振り返った上で、17年の展望をお聞かせください。

毎年、年賀式で年頭所感を社員に話すことが恒例になっており、ブログでもその内容を発表しています。今から1年前、2016年1月上旬には『年頭所感』の他に、『2016年 世界の10大リスク』『2016年 丙申の年のドル円相場』でも16年の展望を書きました。

これらの中でアメリカ大統領選挙についても触れ、専門家の間ではトランプ氏以外の候補が共和党氏名争いで勝つという見方が強い一方で、トランプ氏勝利の可能性ついて指摘しています。

そして6月のイギリス国民投票でEU離脱(ブレグジット)が決まった時、「トランプ氏が大統領に選ばれる」と確信し、SBIグループでは以来、トランプ・リスクに備えてきました。

為替や株式相場の見通しについても、ブログで指摘した通りの動きになってきています。というのも2016年は干支でいうと丙申(へいしん・ひのえさる)の年です。株式相場の格言で「申酉(さるとり)騒ぐ」と言いますが、市場が騒がしくなる年なのです。たとえばNYダウが初めて500ドルを超えたのも60年前の丙申の年でした。

2017年は「丁酉(ていゆう・ひのととり)」の年で、事前に想定もしていないことや、大きな変化が起こる転換点と言えます。16年の丙申の年に続き、2年続けてそういう年回りになるので、18年はもっとややこしい年になるかもしれません。

――ブログでは「トランプ・リスク」という言葉を使って指摘しておられますね。

本質的にはこれから彼が実際にどういう政策を実行するかがキーでしょう。法人税減税や所得税減税、10年にわたる1兆ドルのインフラ投資をする方針で、これらを受けて既にアメリカの株価は上がっています。

しかし、今後懸念されるのは共和党が全面的にトランプ氏に協力するかどうかということです。上院下院ともに共和党が過半数を占めており、果たして支持を得られるのか。また、保護主義的な色彩が濃くなりそうな点も気がかりです。レーガン元大統領と同様に「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」を掲げているトランプ氏が、一種のモンロー主義的な考え方に徹し、議会がサポートするとしたら、経済的緊張が軍事的緊張に繋がり、国防上の非常に重大な問題が生まれる可能性はあります。

外交では対中、対ロ関係が気になるわけですが、中国との貿易摩擦が拡大してGDPナンバー1とナンバー2の国が本格的にやりあいだしたら、これは相当ややこしいことになるでしょう。トランプ氏は早々に台湾の蔡英文総統と電話会談していますが、その一方でエクソン・モービルのティラーソンCEOを国務長官に選んでいます。これは中国もロシアも敵に回すわけにはいかないから、せめてロシアとパイプのある人物を入閣させたということでしょう。

――エネルギー問題は引き続き外交関係の火種になりそうです。

OPECが決めた減産について、当初は及び腰だったロシアを含めた非加盟国も合意しました。ただアメリカではシェールオイル業者が増産もしていて、WTI価格が50ドルくらいになれば掘削の採算が十分に取れる見込みとされているため、再び需給関係が大きく崩れ、また産油国とアメリカとの関係もギクシャクする可能性があります。そもそも原油の需要は国際的に見てそんなに強くないのです。まして米中での貿易戦争が始まればもっと良くなるでしょう。

日本の防衛費はさらにかさむはず

――アジアや欧州はどうでしょうか。

アジアで気がかりなのは韓国ですね。朴槿恵大統領の弾劾審判も決まり辞めることになるでしょうが、先行きは不透明です。また中国も非常に不安定な状況にあります。不動産価格が急上昇して、バブルと言えるのかどうかという状況ですし、政局も習近平国家主席が全権を握ったかのように言われる一方で、江沢民を始めとする長老中心にくすぶっている層が存在しているようです。

欧州で2017年に注目されるのは、オランダの議会選挙、フランスの大統領選挙・国民議会選挙、ドイツの連邦議会選挙でしょう。このところ世界的に右傾化の進行や、ポピュリズムの広がりが叫ばれています。こうした中で既にイギリスはEU離脱の方針を示していて、もし独仏で(ブレグジットやトランプ氏の選出のような)「知識層からすれば違和感のある結論」が出るようなことになれば、そもそも財政主権は参加国に残ったままの通貨統合という矛盾を内包するEUの存続が危ぶまれるでしょう。

――日本についてはいかがでしょうか。

日本経済については、トランプ次期大統領様々で相場も上がり始めていますし、この状況が持続すればインフレ率も上がるでしょう。有効求人倍率も上がっていて、少なくとも雇用面ではほぼ完全雇用の状況です。業種によってはヒトが足らないという声も聞かれます。

アメリカとの関係では、安倍首相がトランプ氏に会いに行ったのをけしからんと言う人もいますが、選挙前にクリントン氏が勝つと思って会ってしまっている。それを帳消しにするという意味でも、必要なプロセスだったと思います。

日本にとっての課題は、防衛費の増加です。特に在日米軍に関する負担を増やさざるを得なくなるでしょう。これ以上、基地問題やオスプレイ配備でモタモタしていると、トランプ氏はあっさり「日本から撤退する」と言いかねない。そうなると日本の安全保障が非常に危ない状況になります。

かさむ国防費を拠出しながら、社会保障費の増加にも対応するのは難しいでしょう。こう考えると当然経済的に良いのは、アメリカと安保条約を結び核の傘に入り、アメリカと連帯で国防することです。多少の負担増をアメリカから要求されても妥協すべきでしょう。ただアメリカから断られたら、どうにかして日本自身が軍事的にも独立を考えないといけない。そういう局面がくるかもしれません。日本にも軍事活用できる最高の技術があるので、こうした点を見直していくべきではないでしょうか。