AI(人工知能)を利用してFOMC(連邦公開市場委員会)の議事録を分析したレポートを、米ヘッジファンド、ツーシグマ・インベストメントが発表した。

一般人には理解困難な専門用語満載の議事録を、自然言語処理技術(NLP)を用いて客観的データに変換することで、直覚性と有益性の高い分析・解釈が可能になる。つまり「だれにでもわかりやすい分析結果」が得られるというわけだ。

「経済学のアート」を難なく解読

年に8回開催されるFOMCは、米金融政策を決定するうえで最も重要な位置づけにある。経済・金融情勢を見直し、経済成長を促進するうえでのリスク特定などが行われる。

社会人ならば世界経済に多大な影響をもたらす米経済の指針を把握しておきたいところだが、「経済学のアート」とも称されるFOMCの議事録やFRB(連邦準備制度)の動きは、専門家などほんの一部の人間にしか解釈が困難とされている。

それゆえに長年、最高金融機関の分析は「FEDウォッチャー」と呼ばれる専門のアナリストにゆだねられてきた。しかし次なるAIのフロンティアとして注目されているNLPを採用することで、だれにでも理解しやすい分析が可能になったのだ。

NLPとは「ロボットと人間の自然な対話」をテーマに、AIの専門家たちが研究を進めている最新の技術である。正確には人間の自然言語をコンピュータ処理する技術を指す。この技術をベースにしたLDA(統計的潜在意味解析)アルゴリズムを用いて分析したものが、ツーシグマのレポート「AI FEDウォッチャー」だ。

世界金融危機では「経済市場」が議論の中心に 2014年以降は「インフレ」

AI分析レポートで最も目立つ変化は、世界金融危機前後の2007年から2009年にかけての記録だ。経済市場についての議論が2007年以前は10%にも満たなかったのに対し、リーマン・ショックが世界をゆるがした2008年には一気に40%にまで増えている。市場の崩壊が議論の流れを一転させたことは明らかだ。

当時、最も頻繁に使われた単語は、「有価証券」「クレジット」「ドル」「利率」「住宅ローン」など。

次いで2014年には「インフレ」が議題の中心に。金融危機期間は15%にとどまっていたが過去数年にわたり30%弱まで伸びている。しかし過去数か月間は、「インフレ」「経済成長」「金融政策」「金融市場」について均等に議論しているという新たな動きも、分析結果から判明している。

FOMCがひとつの課題にかたよることなく、各課題にまんべんなく注意を振りわけているということは、比較的市場のバランスが均等に保たれているとの判断だろうか。いずれにせよ従来見られなかった動きである点が興味深い。

世論がヒラリー氏の勝利を確信する中、トランプ大統領を勝利したAI

金融市場へのAI進出は目覚ましいものがある。株取引の自動化からクオンツを超過する高度なデータ分析まで、その勢いは拡大する一方だ。勿論、金融以外の分野でもAIは着実に浸透している。

面白いものでは米CNBCが昨年実施した「AI米大統領選予想」だろう。CNBCは昨年10月、トランプ大統領と対立候補だったヒラリー・クリントン氏の勝利をAIに予測させた。多くの世論調査やアナリストの予想がクリントン氏に集中していたのにも関わらず、AIはトランプ大統領の誕生を予言した。

しかも「トランプ氏の支持率は、2008年当時人気の絶頂にあったオバマ大統領より25%高い」という、だれも予想しなかった予想を弾きだした。

CNBCが採用したAIシステム「MogIA」は、インドのスタートアップ、Sanjiv Raiの創設者、サンジヴ・ライ氏が開発したものだ。GoogleやFacebookを含むパブリック・プラットフォームから2000万件以上のデータポイントを収集し、分析、予想する。

すでに何千回、何万回と議論されているが、人間がなんらかの理由で途中放棄しないかぎり、AIの進化はますます加速していくはずだ。「人間がどのようにAIを活かしていくのか」は、想像するよりもはるかに深刻な課題である。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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