詐欺,ネット広告,電通
(写真=PIXTA )

2016年に初めて1兆円を超えた「インターネット広告媒体費」(制作費除く)。伸び率は前年比112.9%を記録、新聞や雑誌の広告費が前年を下回る中、インターネットのメディアとしての重要性はますます高まっているが、この成長市場は問題も抱えている。その一つがアドフラウド(Ad fraud、広告詐欺)と呼ばれる問題だ。

インターネット広告業界では一部指摘されていたが、読売新聞が2月18日、「ネット広告の閲覧水増し、年100億円超被害」とする記事を掲載して業界外でも話題になっている。

インプレッション数やクリック数などの水増し行為

アドフラウドの代表例は、広告の表示回数(インプレッション数)やクリック数を不正に水増しするものだ。

インターネット広告の種類は多く、料金体系もさまざまだ。例えばインプレッション数に応じて料金が発生するもの、リスティング広告のように広告がクリックされる回数に応じて料金が発生するもの、広告をクリックしたユーザーが資料請求など何らかのアクションをとった場合に料金が発生するものなどがある。

アドフラウドによりインプレッション数などが水増しされれば、広告主はブランド認知アップや商品の販売といった本来の目的達成につながらない多額の広告費用を支払わされることになる。

インプレッション数やクリック数が不正に水増しされていないか広告主が検証するのは困難なため、広告主はネット広告業者が提示する数字が正しいことを前提に対価を支払う。アドフラウドはこの前提を覆し、インターネット広告の信頼性を著しく損ねている。

広告を見ていたのは「人間」ではなく「ロボット」だった?

2014年に起きたメルセデス・ベンツの事例は大きなニュースになった。

イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』は、メルセデス・ベンツのオンライン広告キャンペーンは人間よりロボットに多く見られていたと報じた。メルセデス・ベンツはネット広告大手のロケットフューエル(Rocket Fuel)にネット広告を依頼。同紙によると、イギリスのアドフラウド調査専門会社が、ロケットフューエルが仲介したインプレッションの内、3週間分の計36万5000インプレッションをサンプルとして分析。その結果、57%が人間ではなくロボットに見られていたことが分かった。

実際にはメルセデス・ベンツは疑わしいインプレッションは全体の6%以下だったと述べ、ロケットフューエルはその分を返金したという。

このロボットは「ボット」と呼ばれるプログラムだ。犯罪者は一般ユーザーのパソコンやブラウザーをボットで乗っ取った後、特定の広告を閲覧させたり、クリックさせたりすることで不正に広告収入を得ている。全米広告主協会(ANA)は2016年中にボットや不正なインプレッションにより世界中で年間72億ドルもの広告費がだまし取られる事態になると述べた。

表示されていない広告、目に見えないくらい小さな広告に料金が発生

ボットによる不正クリックだけではない。広告が表示されていないのに請求されるケースもある。2016年9月、電通はプレスリリースで広告掲載期間のズレ、未掲載、運用実績の虚偽報告などを含む不適切業務が行われていたことを公表している。

疑惑のある作業案件は633件で、不適切な部分にあたる金額は概算で約2億3千万円にのぼったという。また、未掲載の請求は14件あったとしている。

また広告が表示されたとしても、サイズが極めて小さい、または表示が一瞬でユーザーの目に触れていない場合でも費用が請求されるケースがある。この問題を分析するため、米国でメディアの効果測定基準を決めている業界団体MRCと、米国の広告業界団体IABは「ビューアブル・インプレッション(閲覧可能なインプレッション)」の定義を作成した。

これによると広告ピクセルの50%がスクリーン上で最低1秒間表示された場合にビューアブル・インプレッションとすると定義している。Googleの2014年の調査によると全インプレッションの内、実に56.1%がビューアブル・インプレッションではなかったという。

アドフラウドへの対策は

広告業者もアドフラウド問題への対策を進めている。Googleはアドフラウド対策企業Spider.ioを買収した。

日本でもMomentumというアドフラウド対策企業がSMBCベンチャーキャピタルやみずほキャピタルなどから出資を受けるなど、積極的に事業を行っている。Momentumは調達した資金で自然言語処理や機械学習などを生かした新しい広告サービスを生み出す計画だ。

アドフラウドの手口は年々巧妙化しており、対策はイタチごっこだ。しかし、ネット広告の透明性や信頼性を向上させるためには、広告業者を含めたさまざまな企業が協力しアドフラウドを減らす努力を続ける必要がある。(ZUU online 編集部)

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