シンカー:循環的な景気回復モメンタムの高まりと、FEDの利上げを背景とした米国の長期金利上昇などにより、日本の長期金利にも上昇圧力がかかっているようだ。しかし、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、日銀は国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。日米金利差の拡大と若干の追加的な量的緩和効果などが、更なる円安の動きをもたらし、日本のデフレ完全脱却への動きを促進するため、日銀は辛抱強さが必要であると考えているのだろう。
日銀は見通しを維持
3月16日の日銀金融政策決定会合では、「2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで」、「長短金利操作付き、量的・質的金融緩和」を継続し、日銀当座預金残高の金利を-0.1%程度、長期金利を0.0%程度する現行の政策の現状維持を決定した。
12月の決定会合で、日銀は景況判断を「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている」から「基調としては緩やかな回復を続けている」へ上方修正した。
そして、生産・在庫サイクルと信用サイクルが上向いていることが確認でき、その判断の上方修正の後を追う形で見直された1月の展望レポートでは、2017・2018年度の実質GDP成長率の見通しを上方修正した。
3月にも「緩やかな回復基調を続けている」として、堅調な景気回復モメンタムを確認した。
先行きは、「緩やかな拡大に転じていくとみられる」との見通しを維持している。
日銀は辛抱強さが必要であると考えている
循環的な景気回復モメンタムの高まりと、FEDの利上げを背景とした米国の長期金利上昇などにより、日本の長期金利にも上昇圧力がかかっているようだ。
しかし、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、日銀は国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続ける決意をもっているとみられる。
日米金利差の拡大と若干の追加的な量的緩和効果などが、更なる円安の動きをもたらし、日本のデフレ完全脱却への動きを促進するため、日銀は辛抱強さが必要であると考えているのだろう。
黒田日銀総裁と中曽副総裁は、「2%の物価安定の目標」の実現には、依然としてなお距離がある」と指摘しており、国債買いオペの限界などが理由で、日銀が長期金利の誘導目標を早急に引き上げることはないと考える。
1月のコア消費者物価指数は前年同月比+0.1%となり、13ヶ月ぶりに上昇に転じた。
原油価格の上昇、円安、そして賃金上昇をともなう内需の回復により、物価上昇圧力は高まっていくと考えられるが、2017年末までに+1%程度に戻るのが精一杯だろう。
長期金利の誘導目標引き上げの前倒しの必要条件は、コアCPIの前年比が1%、ドル・円が120円を超えることであると考える。
そして、2%の物価安定の目標へのパスがしっかりしていることを確認するため、展望レポートのリスクバランスから、「経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい」という警戒感が消えることも必要だろう。
日銀の利上げは2021年になると予想
来年1月の展望レポートでその警戒感が消え、物価とドル・円の条件も満たし、2018年前半に長期金利の誘導目標引き上げられると予想する。
2018年4月までの任期である黒田日銀総裁が任期中に景気・物価動向が上向いた実績をアピールする意欲があった場合、引き上げは2018年の1-3月期になる可能性がある。
誘導目標を引き上げたとしても、上昇しているとみられる長期金利のフェアバリューを誘導目標が下回り続けることにより、引き続き景気刺激効果があると日銀は説明することになろう。
2%の物価目標を安定的に超えるまでというオーバーシュート型のコミットメントをしているのは、マネタリーベースの拡大だけであり、長期金利の誘導目標はフレキシブルな対応が可能となっている。
米金利の上昇にともなう円安の動きを緩やかにし、円安に対する批判を避けるためにも、2018年には長期金利の誘導目標は複数回引き上げられ、2018年末には0.3%程度まで引き上げられている可能性がある。
長期金利の誘導目標が引き上げられる可能性があるほどに日本のファンダメンタルズが回復すれば、0-10年のイールドカーブもスティープ化することになり、金融機関の収益への下押しが大きく軽減されることになる。
日銀の政策による収益の圧迫への懸念が薄れ、金融機関の株価が上昇するとともに、金融機関の活動も活発化し、企業の活動を後押ししていくシナリオへ進んでいくと考えられる。
2019年10月の消費税率の再度の引き上げを乗り越え、デフレ完全脱却を経て、2%の日銀の物価目標達成が確認できるのは、かなり先の2021年となろう。
3月の党大会で自民党は総裁任期の制限を2期6年から3期9年まで延長した。
2020年の東京オリンピック後の2021年9月まで安倍首相が続投することになろう。
安倍首相の在任が長くなることは、現行の金融緩和の枠組みを維持する日銀の方針の支えとなり、日銀の利上げは2021年になると予想する。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司
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