米配車サービス大手ウーバーが絶体絶命のピンチだ。2月に、元女性エンジニアが同社の根強いセクハラ文化を告発したことに端を発し、なんとか炎上寸前で抑えてきた不祥事や悪しき企業文化が次から次へとメディアで取り上げられ、有力投資家が「改革を早急に行え」と最後通牒を突き付ける事態となっている。
また、ウーバーの運転者への待遇を労働者搾取と見るネット上の運動が1月から高まり、スマホなどから推計20万以上のウーバー・アプリが削除された。
追い打ちをかけるように、アリゾナ州で知事の認可を得て2月からサービスを開始したウーバーの自動運転車が衝突事故を起こし、派手に横転した生々しい写真がウェブで急速に拡散し、ウーバーのイメージはさらに悪化している。ウーバーは、アリゾナ州とペンシルベニア州での自動運転サービスを停止した。
そうしたなか、同社の幹部さえもが一斉に、「ウーバーは、沈みゆく泥船」とばかりに、会社を見捨てて去り始めた。ここ数週間で社長をはじめ、マップビジネス・プラットフォーム担当役員、エンジニアリング担当幹部など7人が辞任を表明している。
このなかには、アリゾナで事故を起こした自動走行車チームの主要メンバーであるチャーリー・ミラー氏も含まれており、ウーバーの将来の基幹事業までが、揺らぎ始めている。ウーバーでいま、何が起こっているのか。まとめてみよう。
ビジネスモデルが内包する矛盾
ウーバーは、2009年に創業した配車プラットフォームであり、政府の乗客輸送に関する許認可を受けていない一般人が、アプリで受けたリクエストをもとに自家用車による輸送を、競合のタクシーより安く提供する、いわゆる「無認可運送白タク」サービスだ。
安さと便利さが圧倒的な支持を受けて急成長し、現在では世界70の国や地域にある450以上の都市でビジネスを展開している。目的地に「人」が指定可能になるなど、革新的サービスで好評だ。
ITテクノロジーを使い、サービスに使用される車両の購入や整備費、さらに乗客運送会社が負担しなくてはならない運転手や配車係、整備士の雇用コストや福利厚生費、さらに許認可で必要となる営業登録、保険加入、車両の定期点検を、丸ごとドライバーおよび乗客にシフトすることにより、安さと便利さを実現している。
このようにウーバーは、米民泊大手Airbnb(エアビーアンドビー)と同じく、法律や社会規範をわざと破って利潤と成長を達成するディスラプション(破壊)のビジネスモデルを武器にしており、ビジネス経費を労働者と社会に負担させることで成功を収めてきた。ところが、その成功が失敗であったことが、先月来の「踏んだり蹴ったり」状態で明らかになった。
ウーバーのドライバーたちは、客がウーバーに支払った金額のおよそ70%が収入になるとされるが、もとの配車代が安く設定されているため、収支は「カツカツ」であることが多い。
そのため、労働組合を結成する動きがあるが、その度にウーバーに阻止されてきた。そうしたなか、トラニス・カラニック最高経営責任者(CEO)が、分配金額を増やすよう懇願するドライバーたちを恫喝する動画が公開された。
また、ドライバーたちは、アプリを通して客からチップを受け取れるようにしてほしいと訴えたが、あえなく却下された。こうして、「ウーバーに搾取されるドライバーはかわいそうだ」という世論が急速に強まってきたのである。
いくら経費を切り詰めたところで、運送業は労働集約型の産業だ。ウーバーの直近の決算では、四半期ごとに10億ドル単位の損失を出している。うるさい労働者と投資家と世論を黙らせるため、ウーバーは自動運転配車に舵を切った。ドライバーの労働コストが漸減し、最終的にゼロに近くなれば、同社は莫大な利益を出せる。
現在の白タクモデルは「世を忍ぶ仮の姿」に過ぎず、ウーバーの究極の姿は、自動運転配車アプリのプラットフォームなのである。だが、その自動運転サービスを始めたアリゾナで、道を譲らなかった別の車と自動走行車が衝突事故を起こした。ウーバーの自動運転車に過失はなかったものの、まだ安全技術が成熟していないことは確かで、そこに同社の性急さが見える。その性急さは、同社の腐敗した企業文化に由来している。
「とにかくやっちゃえ」の企業文化
ウーバーのやりかたは、とにかく強引だ。「やっちゃえ、日産」ならぬ、「とにかくやっちゃえ、ウーバー」である。たとえば、自動走行車の運用には1台当たり年間150ドルの認可費用がかかるが、その支払いさえ、拒否している。
また、ウーバーは昨年、米自動運転車開発ベンチャーのオットーを買収したが、そのオットーの技術者の多くは、インターネット検索大手グーグルを傘下に持つアルファベットの自動運転車プロジェクト部門が独立したウェイモの元従業員である。アルファベットは元従業員の一部がウェイモから技術情報を盗んだと主張し、自動運転車開発の差し止めを求めてウーバーを提訴している。
それだけではない。ドライバーの年収を実際より多く見せかける求人広告を掲載したとして、連邦取引委員会(FTC)に訴えられた裁判では、2000万ドルの罰金が命じられた。黒人指導者たちが、「ドライバーに占める黒人の割合が低い」と指摘しても、改善しない。女性差別についても、セクハラ事件が起こって初めて社内対応を考える有様だ。
反社会的な企業文化は反感を呼び、社外取締役であり、「ハフィントン・ポスト」創始者のアリアナ・ハフィントン氏や、黒人のエリック・ホールダー元司法長官を中心とする調査チームも立ち上げられた。
ビジネスモデルは残る
ウーバーは、既得権破壊者として、「親方日の丸」的な許認可による業界保護の仕組みに不満を持つ層や、「安ければよい」よいう層から支持を受け、成長してきた。その過程で顧客層は、ウーバーの労働者搾取や好ましからざる企業文化にあえて目をつむってきた。
だが、それが限界に達し、会社設立時からウーバーをひいきにする投資家・株主であるミッチ・ケイパーをして、「破壊的な企業文化にうんざりしている」と言わしめることになった。
米『ニューズウィーク』誌などのメディアでは、「ウーバーが総スカンを喰らって倒産しても、ウーバーが開拓した配車ビジネスのモデルは、競合のリフトやグラブなどが発展させていく」と見ている。
恐らく、ある程度の待遇改善が行われ、配車料金は値上げされることになろう。そうすれば、業界はコスト減のために、ますます自動運転に力を注ぐことになる。
今回のウーバー騒動は、一企業や一業界の枠を超え、従来の正社員的働き方から、ウーバーのドライバーたちのようなフリーランサー、派遣労働者、日雇い労働者から利潤を得る「ギグ・エコノミー」「ロボットや人工知能が職を奪う社会」そのものに関する論争に発展する様相を見せ始めた。
低賃金、貧弱な福利厚生、手薄い社会保障を誘発するおそれがある革新的ギグ・エコノミーやディスラプションのビジネスモデルは、社会的に持続可能なのか。ウーバーや競合のこれからに注目が集まっている。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)
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