徹底した顧客目線で待てる経営を続ける

さて、ベゾス氏がリスクを取って大量に自社倉庫を保有するに至ったのも、品切れを防いで素早く顧客に商品を届けるためです。つまり、6年間もの間赤字に耐え続けながら、最高の顧客体験を提供し続けたおかげで売上高が拡大し、やがて赤字を解消することが出来たのです。この、アマゾンの顧客目線は、ウェブサービスにも現れています。商品のカスタマーレビューは、顧客の販売を促進するためという企業の理屈ではなく、顧客が購入検討をするための手助けとして導入されています。故に、カスタマーレビューはポジティブなものとネガティブなものを並列して並べているのです。ベゾス氏が以前日本に来日した際も、自分たちが待てる経営であることについて以下のように語っています。

ベゾス「おっしゃるとおり、私たちは辛抱強い。待つのは平気です。2、3年でうまくいく必要はまったくありません。状況によっても変わりますが、一般的に私たちの会社が見ているタイムラインは、5年から7年。もちろんどこかの時点で顧みる必要は出てくるでしょう。うまくいかないものにいつまでも投資することはできませんから。しかし、1つの事業を構築するために5~7年にわたって投資する用意は常にあります。我々は市場シェアを自分たちで決めることはできないと常に思っています。最高の顧客経験を提供することに重点を置いてビジネスを展開するだけ。あとは顧客がアマゾンのシェアを決めます。アマゾンで買い物をするのか、それとも別のところでするのか。これは常に顧客が決めることです。」

アマゾンの顧客目線の経営

さて、世界一のECサイトとなったアマゾンは、その後自社の技術を活かしてクラウドサーバーの提供を行う「AWS」や自社が最も得意とする書籍の電子版デバイス「Kindle」を発表する等、さらに売上高を拡大するために新しい事業を行っています。既に米国では書店の売上げを凌駕するという「Kindle」ですが、これもまた顧客目線のサービスとなっています。アマゾンが提供する専用デバイス「Kindle」および「Kindle Fire」はほぼ原価での提供となっており、アマゾンはKindleマーケット上で売れた電子書籍の手数料を収益源としています。さらにはユーザーに無償で3G回線を提供しており、ここにもアマゾンの顧客目線の待てる経営の片鱗が見えると言えるでしょう。