「
30年で市場は5倍 『ピザデリバリー』を比較する
」という記事を執筆したが、その後「ピザハット」を運営する日本KFCが投資ファンドにピザ事業を売却することとなった。その背景と業界の現状を分析する。
購入したファンド「エンデバー・ユナイテッド」とは?
今回、日本KFCがピザハットブランドを売却したファンドは「エンデバー・ユナイテッド」と呼ばれる法人が保有・運営するファンドだ。
なじみがないファンドに聞こえるが、こちらは「フェニックス・キャピタル」系列の法人およびファンドであり、かつては三菱自動車などにも投資していた。
ファンドの分類としては購入した事業を再生・改善、もしくはおいしいところだけ「分解」して利益を挙げる「プライベート・エクイティ・ファンド」と呼ばれる種種別で、日本などではバブル崩壊後の資産買いあさりに対する蔑称を込めて「ハゲタカファンド」などとも揶揄されることもある。
もっとも現実的には「だめになった企業・事業を買い取り、再生して売却することで利益を上げる」というのが基本的な構造なので、ごく一部の「解体および鞘抜き」を行っている悪質なファンドが業界全体の評判を下げているだけで、特に大きな問題がある形態であるというわけではない。むしろ事業を「再生」してくれる、という目線では経済の新陳代謝を促進するという役割も担っているため、非常に重要かつ「ポジティブ」なビジネス形態であると言える。
なぜ「事業売却」されたのか?
社会的には新陳代謝という重要な役割があるとはいえ、「事業」が買収されるということは敵対的買収など「ファンドが法人から経営権を奪取する」というケース以外では、何らかの問題を抱えていた、という事に他ならない。
そこで会社公開資料をひも解いてみると、実は「ピザハット事業」は売上こそ上がっているものの推移は横ばいで、かつ利益もほとんど上がっていなかったということが見て取れる。
法人が公開しているIR情報を元に決算書をひも解いてみると、2015年の3月決算から2017年の3月決算までの3年間、売り上げは約150億円でほぼ横ばいだ。また利益に関しては2017年度こそ黒字であったものの、2015年度・2016年度共に赤字で推移しており、状況はよろしくない。
また日本KFCは米本社にてピザハットブランドのライセンス契約を締結しているが、その更新日が迫っているというのも売却に後押しをした形だ。このライセンス(フランチャイズ)契約は2007年から2017年の11月末まで有効であり、現在の契約は出店費用が1店舗ごとに約100万円(為替レートにより変動)、契約更新料も無料という、「破格」な契約となっていた。
だが2017年11月以降の「契約更新」においては提示された条件はかなり厳しい。
こちらもIR情報及び関連情報によると、11月末以降の1店舗当たり4.19万ドル(約460万円)、契約更新料も2.09万ドル(約230万円)に跳ね上がる。
これらから考察するに、売上が横ばいかつ利益率が悪く、さらには契約コストも数倍に跳ね上がるという状況から、事実上「ギブアップ宣言」をして売却する、というのが今回の事業売却の概要だ。
事業再生ファンドの勝算は?
前回の記事ではピザ3ブランドのWebサイトで「企業の差別化と経営方針」を考察したが、ピザブランド3社の中でピザハットのみが特に具体的な差別化要素などが見当たらず、やんわりと「このままでは顧客に選ばれ続けることはできない」と記載した。今回の事業売却は図らずしもこれが証明されてしまった形だ。
一方で、事業を引き受けるファンドの勝算はどうだろうか。当然、ファンドというのは「投資家から集めた資金を運用し、利益を上げる」という構造なので、何かしらの「勝算」なくして事業を購入することはありえない。ファンド売却に限らず、何かしら「買い手がつく事業」というのはつまり、「磨けば光る原石」である可能性がある。
そこで再度注目したいのは「日本ピザ業界の推移」だ。
各運営法人Webサイトから「店舗増加数」を比較すると、ピザハット・ピザーラの店舗数は2012年度より「ほぼ横ばい」であるが、それを尻目に「ドミノピザ」は店舗数を5年間で約2倍以上にまで増やしている。つまりこれは、ピザ業界自体には「成長の伸び白」が残っているという事に他ならない。おそらく購入ファンドもこういった要素があるということが「事業購入」に踏み切った理由の一つではないかと考える。
いずれにせよ、「経営と企業再生のプロ」である事業再生ファンドに事業権が移ることで、ピザハットは今後、新たな段階を迎える。残念ながら非上場企業なので直接投資することは難しいが、今後の推移を見守り、経営と再生の専門家であるファンドの手腕に注視していきたい。(土居亮規 AFP、バタフライファイナンシャルパートナーズ)