銀行が顧客ひとりの需要にこたえるスマート・デジタル化を実施すれば、年間で最高15%も収益を増やせるほか、ネットワーク・コストも最高で35%削減できるかもしれない--。そんなが期待が、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査結果から浮上している。

「バイオニック・トランスフォーメーション(生体工学への改革)」とは?

スマート・デジタル化は分析ツールなどテクノロジーを用いて顧客・地域による需要の差を見極め、最も効率的かつ効果的なデジタル戦略を導入・普及させることを指す。

デジタル化への取り組みが「常識」となった現在、漠然とデジタル分野に投資するだけではなく、効率化を図ることが長期的な利益を生みだすはずだ。

BCGは報告書 の中で、未来のリテール銀行にとって、「バイオニック・トランスフォーメーション(生体工学への改革)」 がカギになるとの見解を示している。

これは近年頻繁に耳にする「デジタル・トランスメーション(ITの利用により人間の生活を向上させるという概念)」に付随する発想だ。

回答者の43%が未来のバンキングに対し、「(人間のスタッフとの)物理的なコミュニケーションと(デジタル・ツールによる)バーチャルなコミュニケーションを望んでいる」との調査結果に基づいている。

つまり多くの消費者はデジタル化で利便性を向上しつつ、従来の人間による商品・サービスも必要に応じて利用したいと考えている。

銀行がこうしたネットワークの構築に成功した場合、5%から15%の収益増加、15%から35%のネットワーク・コスト削減、10%から15%の顧客満足度の向上が期待できるという。

一つの戦略を全支店で共有するのは古い

BCGの予想によると、リテール銀行のデジタル・トランスフォーメーションにより、業務純益は2020年までに最大30%増えるかもしれない。

デジタル・バンキングを専門とする次世代銀行は、従来の銀行の2倍の速度で新規口座開設を処理し、1.5倍の人数の顧客に対応しているという。

リテール銀行による収益は全銀行業務収益の45%と、金融サービスの基盤であることに変化はないものの、地域によって微妙に変化の兆しが見られる。

例えば2016年から2020年にかけてのリテール銀行の予想CAGR (年平均成長率)が、中近東、アフリカ、北米では9%から10%であるのに対し、アジア太平洋では6%、中央・東欧州では5%、米国や西欧州では2.5%まで落ちこむ。

このことからBCGは、ひとつの戦略を全支店で共有するという従来のビジネスモデルの概念を捨て、今後はデータ分析ツールなどを賢く利用し、地域特化型のサービスを提供することがリテール銀行に求められると推測している。

デジタル化とともにハードルの高くなる「顧客の需要」

リテール銀行の顧客の需要が「高質で理解しやすい、手ごろな価格の商品」であることも、調査から分かっている。

顧客はデジタル化をポジティブに受けとめる反面、オンライン、オフライン問わず、個人の需要に合わせた商品やサービスを銀行に期待している。

BCGはこうした顧客の需要に敏速に対応し、「価値基準価格設定(商品・サービスの価値に基づいた価格設定)」を取り入れることで、6カ月から12カ月の間に15%の収益増加が見込めるとしている。

デジタルを賢く利用したサービス改善が、社会や経済にもたらす影響は計り知れない。銀行はサービスの水準や利益性、競争力を引き上げを目指し、効率的かつ効果的にデジタル技術と個々の顧客の需要に合わせたコミュニケーションに焦点を当てることで、新境地を切り開けるのではないだろうか。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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