AI(人工知能)技術を就職試験などに採用する企業が増えてきたが、これは将来的に人事部そのものがAIに置き換わる可能性を意味するのだろうか。
現時点では採用担当者の存在の危機を追いやるレベルには達していないものの、人選に費やす時間・労力・コストの大幅な縮小に貢献していることは間違いなさそうだ。しかし一部ではその学習能力や分析力に疑問を唱える声も挙がっている。
「48時間以内に4000人の応募者から採用決定」AI
「AI HR(人的資材)分析」とはこれまで人間が行っていた書類選考や面接を、機械が代わりにこなすというものだ。人事担当者の直観や経験、趣向に左右されるところが大きかった領域を、機械特有の精密さと迅速さで効率化を図れると期待されている。
一般的なプロセスを説明すると、過去の応募者の履歴書データや採用試験の合否判定結果などから採用基準を学習したAIが、候補者のデータから適切な人材を選び出すというものだ。
人事担当者が履歴書に一通づつじっくりと目をとおす必要もなく、独断的な偏見や趣向も存在しない。
実際にAI HRシステムを採用しているオンライン不動産42フロアーズ・コム のジェイソン・フリーマンCEOは、「完璧とまでは行かないが人間よりも早くて優秀」と満足気だ。
「わずか数日で4000人の応募者から候補者を2、3%に絞りこみ、48時間以内に最終候補を決定できる」という(フォーチュン誌より )。確かに人間には達成困難な迅速さである。
単なる振り分け作業の領域を超えたAI深層分析
「いくら仕事が早くても、所詮単純な振り分け作業しか出来ないのではないか」との、懐疑的または侮蔑的な意見もある。しかし42フロアーズ・コムが利用するAI人材スタートアップ、インターヴュード のサービスのように、基本的な振り分け作業以上の深層分析を行うAI 人材ツールも珍しくはない。
例えば応募者のSNSで「Thank you」「Please」などの言葉が使われている頻度から人間性を評価する、あるいはプロファイルから「転職する確率」を算出するといったもの、職場における性別多様性向上を狙った、効果的な求人広告をAIが書いてくれるものまで実に様々だ。
またGoogleがAI求人検索エンジンのサービス を開始したことも、Tech Crunchなどの報道から明らかになっている。
このままではいずれ人間の出番はなくなりそうな勢いだ。現時点では少なくとも書類選考プロセスで、AIは人間を超えたのだろうか。
リクルーターとしてのAIの能力に疑問の声
カリフォルニアのHR企業リクルート・イヤー のディレクター、ソニー・サーナ氏は、Linkedinへの寄稿の中 でこうした悲観的な見解に大いに疑問を唱えている。
サーナ氏はリクルーターとしてのプライドをかけて、自らAIの人材発掘能力に挑戦。ふたつの大手AI人材サイトに、「職探し中のサクラ」として登録してみたという。その結果、「自分の希望条件とはほど遠い求人紹介が、1時間何百通という勢いで送られてきた」そうだ。
つまりAIを使った採用企業が強調しているような「精密性」や「効率性」が真実であれば、カリフォルニアの人材マネジメントの専門家であるサーナ氏に、「土木工学者向けのオハイオでの求人を紹介するはずがない」というわけだ。
サーナ氏はこうしたAI採用と人間による採用では、料金にも大差がない点を指摘し、「同じお金を払うなら、きちんとした知識と経験のある専門家に依頼すべき」と、人間に情勢が有利であると主張している。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)
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