シンカー:自民党で安倍首相に代わって誰が今の時点で総裁となっても、来年の衆議院選挙で大きく議席を減らす可能性が高く、退陣リスクが大きいため、来年9月の自民党総裁選挙まで、自民党内での対立は大きくならないだろう。また、野党になった厳しい時代を経験している議員も多く、自民党内部の政争により政権が自壊し、また下野させられるリスクへの警戒感は常に強く、自民党の団結力を過小評価してはいけないだろう。憲法改正を成功させるため、そして来年の衆議院選挙に勝利するためにも、景況感の上振れが必要となる。必要に応じて追加的な経済対策を実施し、財政政策は増税・緊縮より緩和的な景気重視型となり、国民の生活を支援し、景気回復の実感を国民に届けようとする政府の姿勢がより強くなるとみられる。自民党総裁選挙までは、安倍首相にはさまざまな意味でまだチャンスが与えられており、時間は十分にある。安倍首相は、デフレ完全脱却と憲法改正による戦後レジームの脱却の初志を貫徹するため、まずは国民に景気回復の実感を早く届けて、支持率を不支持率を上回る状況に回復させようとするだろう。支持率低下により安倍首相の衆議院の解散権が制限され、政治的な求心力が衰えているとの見方がある。自民党が安倍首相の想定通りに憲法改正原案の作成に前向きに進めば、憲法改正の可能性を残すため、衆議院の解散は先延ばしとなろう。一方、自民党が消極的であれば、総裁選での勝利が優先され、自民党が過半数を維持できるとみられる局面で、首相は解散に踏み切る可能性がある。郵政改革において当時の小泉首相と自民党の温度差が大きく、衆議院の解散につながった局面と似ている。憲法改正の議論の進捗次第で解散の可能性が変わる状況は、安倍首相から自民党に大きなプレッシャーがある状態であるため、安倍首相の政治的な求心力が大きく衰えることはないだろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

8月3日に内閣改造が行われ、安倍首相は低下した支持率の持ち直しに新体制で挑むことになった。

今回の内閣改造・自民党役員人事では、これまでの根幹は維持され、派閥横断的なバランスがとれ、自民党は挙党体制で安倍内閣を支える形となった。

自民党で安倍首相に代わって誰が今の時点で総裁となっても、来年の衆議院選挙で大きく議席を減らす可能性が高く、退陣リスクが大きいため、来年9月の自民党総裁選挙まで、自民党内での対立は大きくならないだろう。

また、野党になった厳しい時代を経験している議員も多く、自民党内部の政争により政権が自壊し、また下野させられるリスクへの警戒感は常に強く、自民党の団結力を過小評価してはいけないだろう。

安倍内閣の支持率は低下したが、野党である民進党の支持率も低下し、無党派層が増えているのも、政策次第で内閣支持率が再上昇する可能性を示している。

現状では安倍首相が総裁に三選され、衆議院選挙では議席を減らすが連立与党で過半数が維持され、2021年の総裁任期末まで首相であり続けるのがまだメインシナリオだろう。

安倍首相が表明した憲法の改正の手続きを世論の動向を見ながら進め、2018年末の衆議院の任期満了の前に改憲の発議をするシナリオがまだ高いと考える。

憲法改正の方向性を撤回すれば、自民党内部での安倍首相の求心力は急激に衰えるリスクがあり、引いても進んでも政権のリスクの大きさは同じであるため、改憲の方向性は維持されるだろう。

順調に発議がなされ2018年末の衆院選挙と改憲の国民投票(発議の60日以降180日以内)が同日にできるかは、これからの支持率の動き次第だろうが、改憲勢力が三分の二以上を占める現在の国会勢力で発議まで辿りつこうという安倍首相の路線に今のところ変化はないだろう。

支持率低下により安倍首相の衆議院の解散権が制限され、政治的な求心力が衰えているとの見方がある。

自民党が安倍首相の想定通りに憲法改正原案の作成に前向きに進めば、憲法改正の可能性を残すため、衆議院の解散は先延ばしとなろう。

一方、自民党が消極的であれば、総裁選での勝利が優先され、自民党が過半数を維持できるとみられる局面で、首相は解散に踏み切る可能性がある。

郵政改革において当時の小泉首相と自民党の温度差が大きく、衆議院の解散につながった局面と似ている。

憲法改正の議論の進捗次第で解散の可能性が変わる状況は、安倍首相から自民党に大きなプレッシャーがある状態であるため、安倍首相の政治的な求心力が大きく衰えることはないだろう。

憲法改正を成功させるため、そして来年の衆議院選挙に勝利するためにも、景況感の上振れが必要となる。

必要に応じて追加的な経済対策を実施し、財政政策は増税・緊縮より緩和的な景気重視型となり、国民の生活を支援し、景気回復の実感を国民に届けようとする政府の姿勢がより強くなるとみられる。

そのために必要とされる政策であれば、新規国債の発行による防災対策とインフラ整備、そして教育国債を含めたスキームの教育無償化などを含め、「国土強靭化」、「働き方改革」、そして「人づくり革命」の下、ばら撒きとの批判を恐れず、政策を遂行するだろう。

消費税率の引き上げの是非を決める来年の秋までは、消費税とプライマリーバランスの議論はまず封印し、必要であれば新規国債を増発してでも経済対策を実施し、景気拡大を促進し、その環境を整えることに注力するだろう。

消費税率の引き上げとプライマリーバランスの黒字化目標の是非は、その結果次第だろう。

人手不足を強く感じている企業は設備投資を拡大しはじめ、2020年のオリンピック関連の支出も増加し、総賃金の拡大が消費を支え始めている。

4-6月期の実質GDPは前期比年率+4.0%と内需中心に上振れ、2017年と2018年は潜在成長率を十分に上回る成長となる可能性が高い。

2018年の春闘は、2017年度の好調な企業収益と深刻な雇用不足感、そして物価が上昇に転じたことを背景として、大きな賃金上昇がみられるだろう。

経済成長率は好調に推移するとみられ、景気拡大の実感が強くなるに従い、総裁選に向けて安倍内閣の支持率は持ち直し、政権は維持されると考える。

来年9月の自民党総裁選挙までは、安倍首相にはさまざまな意味でまだチャンスが与えられており、時間は十分にある。

二度目の政権で、「nothing to lose(失うものはない)」である首相は、結果を恐れず、デフレ完全脱却と憲法改正による戦後レジームの脱却への初志を貫徹しようとするだろう。

まずは、国民に景気回復の実感を早く届けて、内閣改造の仕切り直しで下げ止まった感のある支持率を不支持率を上回る状況に早く回復させようとするだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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