交通機関で遅延が発生し、怒りをあらわにした乗客が駅員に詰め寄る。そんな光景は決して珍しいことではない。銀行も同じだ。混雑した窓口で激昂されるお客様は1人や2人ではない。あなたの会社はどうだろう? 取引先で過剰な要求やクレームを突き付けてくる人はいないだろうか。

モンスター化したお客様と向き合うのは相当なストレスだし、もはや社会問題化しつつあると言っても過言ではない。そうした中、「神対応」と賞賛される出来事が伝えられた。なぜ、この出来事が多くの人に賞賛されたのだろう。それは我々銀行員にとって非常に重要なことを示唆しているように思えてならない。

あなたが機長ならどう「判断」する?

事故や故障、悪天候など理由は様々だろうが、多くの人が交通機関の遅延を経験したことがあるはずだ。「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。復旧までしばらくお待ちください」というアナウンスはあくまで事務的で、我々乗客は早期復旧に過度な期待を寄せてはいけないことを経験的に理解している。

しかし、そうした状況で突然歌声が聞こえてきたら、あなたはどう感じるだろうか。

8月20日、新千歳空港発、大阪(伊丹)空港行きの全日空機での出来事である。予定時刻を大幅に過ぎても出発できず、待機を余儀なくされた機内でシンガーソングライターの松山千春氏が『大空と大地の中で』を熱唱してみせたのだ。その様子はTwitterで拡散したほか、多くのメディアでも取り上げられ「神対応」と賞賛された。

彼の行動はもちろん賞賛に値するが、それよりも乗客の前で歌うことを許可した「機長の判断」に私は敬意を表したい。機長と銀行員、立場は違えど同じサラリーマンである。もし、私が機長の立場で、松山氏からこの申し出を受けたならどのように対応しただろう。多くの銀行員は、いや銀行員でなくとも「リスクを取りたくない」という気持ちが何よりも優先されるのではないだろうか。

もし、彼が歌うのを許可したとして、上手く事態を納められる保証はどこにもない。それどころか、かえって乗客の怒りを助長する恐れもないとは言えない。多くの乗客がカメラやスマホを持っており、ことの顛末がSNS等にアップされ、拡散されることも想定しておかねばならない。顛末を会社にどのように報告すべきか。そう考えると、ありがたい申し出ではあるが、お断りするのが最善の選択と考える人もいるのではないだろうか。

なればこそ、私は機長の判断こそ真の「神対応」であったと心の底から拍手を送りたくなるのだ。

もし、銀行窓口に松山千春氏が現れたら?

「いったいいつまで待たせるんだ!」銀行の窓口が混雑すると激昂するお客様は珍しくない。待ち時間が長い、対応が良くないなど「ご迷惑をおかけした点」については当然真摯に謝らなければならない。しかしながら、中にはちょっとやり過ぎのお客様がおられるのも事実だ。

「待ってるのはあんただけじゃないんだ。みんな待ってるんだよ。銀行の窓口だって一生懸命やってるんだから、もう少し静かにしたらどうなんだ」そんなことを言ってくださるお客様だって実際におられる。そんな時は本当に救われた気持ちになるのだが、お客様同士の口論になったり、殴り合いの喧嘩にまで発展しない可能性もないとはいえない。

お客様の好意を台無しにするどころか、ご迷惑をおかけしては申し訳ない。そういう気持ちからも、本当は「お客様に何かをしてもらう」ことは必ずしも良いことではない。

もし、大混雑した銀行の窓口で松山千春氏が歌を歌いたいと申し出たとして、銀行員の私はそれを許可することができるだろうか。そう考えると先の「機長の判断」に改めて拍手を送りたくなるのだ。

「現場独自の判断力」を養うことが「神対応」につながる

現実問題として、機長のように柔軟な判断ができる銀行員がいったいどれほどいるだろうか。

銀行では多くの業務がマニュアル化されている。現場の対応がマニュアルに反するとペナルティの対象となることさえある。このような職場環境では、「現場が萎縮」してしまうのは無理もない。自分の身を守るにはマニュアルや規則に従って仕事をするのが賢明と考えてしまいがちだ。

一方で、顧客がモンスター化し、無理難題を押しつけられるケースも珍しい話ではなくなっている。もはやマニュアルのみで対応できるレベルを超え、「現場独自の判断」を求められるケースが増えているように感じるのだ。

「お客様の利益、銀行の利益のために、私はこう判断しました」堂々とそう言える銀行員が一体どれだけいるだろう。胸を張ってそう言える銀行員が一体どれだけいるだろう。

松山千春氏の「神対応」は、マニュアルにとらわれない「現場独自の判断力」の重要性を示唆しているように思えてならない。それは我々銀行員が、銀行員として生き残るためにも必要なことなのだ。(或る銀行員)

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