中国政府によるICO全面禁止令が、各国の中央銀行の動きに影響を与えそうだ。

米国、シンガポールなどが、ICOや仮想通貨の無秩序な取引に対する警戒心を強める一方で、カナダなどは規制当局の支援の元、安全な流通環境の整備に力を注いでいる。

米国、シンガポール規制当局「ICOトークンは証券規制の対象」

中国人民政府は2017年9月、「経済および金融の秩序を著しく乱す」として、ICOによる資金調達を違法と見なす見解を正式に示した 。

中国の規制局が大部分のICOを「金融詐欺、あるいはネズミ講」のような存在と懸念し、捜査中であったことは以前から報じられていたものの、全面禁止令が市場に与えた衝撃は計り知れない。

また今回の決断が他国の政府におよぼす影響も、市場を不安に陥れている。特に同様の警鐘が鳴り響く米国やシンガポールでは、ICO、ひいては仮想通貨への規制が強化される可能性も予想される。

2016年、ハッキングの被害で360万イーサ(当時の価格で5000万ドル相当)を流出させたDAOのハッキング事件 を機に、米国証券取引委員会(SEC)はその背景の調査に乗りだした。その結果、一部のICOトークンを証券規制の対象と結論付け 、取引所の登録を義務化すると同時にSECの管轄下に置く意向を示している(フォーチュン誌より)。

規制は米国内での売買にのみ適用されるが、SECの決断が世界各地の仮想通貨・ICO市場への「警告」として受けとめられた感が強い。

シンガポール金融管理局(MAS)も国内におけるICO規制を明確化し、 SEC同様、「証券先物法の対象に該当するICOトークンには規制が適用される」と発表した。

カナダ、マン島は「安全なICO環境」を整備

こうした流れは「ICOや仮想通貨を抑制する動き」と捉えられがちだが、各国の中央銀行が懸念を示しているのは「ICOや仮想通貨による犯罪行為の増加や金融市場の混乱」であって、ICOや仮想通貨、トークンの流通そのものを否定しているわけではなさそうだ。

実際、中国、米国、シンガポールを含め、多数の中央銀行が独自の仮想通貨発行の可能性を探索している。正式な機関の承認を受けず、法の手が届かない仮想通貨やトークンを流通させておくよりも、規制の行き届いた安全な商品を市場に送りだすという試みだ。消費者や投資家を保護するという点では理論にかなう。

コインデスクの報道 によると、カナダのケベック州の金融機関規制当局AMFは、スタートアップ、インパックコインのICOの安全性を承認。カナダ初の認可ICOの誕生に至った。

早期からビットコインの促進と共に規制の導入検討にも積極的だったマン島(アイルランド海に存在する、英王室属領)でも、「マネーロンダリング対策やKYC規制に準拠したICOを可能にする規制フレームワーク」を完成させたことが、経済開発省FinTechデジタル開発部門責任者、ブライアン・ドネガン氏の発言 から明らかになっている。

危険性を恐れるあまりに将来の可能性を摘み取ってしまうのではなく、危険性への対策を注意深く盛り込みながら可能性を育てていくというアプローチに好感が持てる。カナダやマン島のような柔軟な姿勢が、今後のICO市場にポジティブな影響をもたらすはずだ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

( FinTech online編集部

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