シンカー:物価停滞の一つの理由として、アベノミクスの効果がなかったのではなく、効果があり潜在成長率(供給能力)が思ったより上昇していたからだというポジティブな動きがあることを軽視してはいけないだろう。内閣府の推計では、潜在成長率は2016年10-12月期の段階で+1.0%となっていたことが確認され、アベノミクスが始まる前の2012年の+0.8%程度から上昇している。潜在成長率の上昇寄与の中身を見ると、労働投入量が-0.1%から+0.3%へ改善し、アベノミクスの成長戦略の柱である女性・高齢者・若年層の雇用拡大の寄与がかなり大きいことが確認された。少子高齢化と景気低迷などにより労働投入量の寄与はマイナスが続いてきたが、1990年4-6月期以来のプラスに転じている。一方で、未熟なインプットが増加しているため、全要素生産性は+1.0%から+0.6%へ低下してしまっている。景気拡大の初期はインプット、後期には生産性で、潜在成長率は上昇していくことになる。特に労働のインプットが大きく増加している間は、賃金上昇は強くならず、結果として物価上昇も強くならない。しかし、インプットの増加率がピークに達した後、物価動向は、需要の増加と生産性の上昇のバランスによって決することになる。需要の増加に対して、生産性の上方は緩やかであるのが一般的であることを考えれば、景気拡大が継続していれば、物価上昇は加速していく可能性が高い。原油価格が下落しない限り、2018年も物価上昇幅は拡大し、年後半には1%を上回っていくだろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

9月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.7%(8月同+0.7%)となった。

1月にマイナスからプラスに転じて以降、上昇幅が順調に拡大している。

原油価格の持ち直しにともない、エネルギー価格の上昇幅が拡大してきた影響が大きい。

実際に、9月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)は同+0.2%(8月同+0.2%)と、上昇を始めているが、上昇幅はまだかなり小さい。

ここから原油価格が上昇を続けていかないかぎり、前年同月比に対するエネルギーの寄与は既にピークに達してきている。

そして、失業率がNAIRU(物価上昇が加速しない失業率)とみられる3%程度まで低下し、バブル期を越える有効求人倍率の水準であり、労働需給はかなり引き締まっている状況ではあるが、物価上昇はこれまで弱かった。

よって、エネルギー価格以外の上昇圧力に対する見方は引き続き弱い。

そうなると、来年以降は物価上昇幅が縮小していくという予想が多くなるのも理解できる。

しかし、物価停滞の一つの理由として、アベノミクスの効果がなかったのではなく、効果があり潜在成長率(供給能力)が思ったより上昇していたからだというポジティブな動きがあることを軽視してはいけないだろう。

内閣府の推計では、潜在成長率は2016年10-12月期の段階で+1.0%となっていたことが確認され、アベノミクスが始まる前の2012年の+0.8%程度から上昇している。

潜在成長率の上昇寄与の中身を見ると、労働投入量が-0.1%から+0.3%へ改善し、アベノミクスの成長戦略の柱である女性・高齢者・若年層の雇用拡大の寄与がかなり大きいことが確認された。

少子高齢化と景気低迷などにより労働投入量の寄与はマイナスが続いてきたが、1990年4-6月期以来のプラスに転じている。

一方で、未熟なインプットが増加しているため、全要素生産性は+1.0%から+0.6%へ低下してしまっている。

景気拡大の初期はインプット、後期には生産性で、潜在成長率は上昇していくことになる。

特に労働のインプットが大きく増加している間は、賃金上昇は強くならず、結果として物価上昇も強くならない。

しかし、インプットの増加率がピークに達した後、物価動向は、需要の増加と生産性の上昇のバランスによって決することになる。

需要の増加に対して、生産性の上方は緩やかであるのが一般的であることを考えれば、景気拡大が継続していれば、物価上昇は加速していく可能性が高い。

原油価格が下落しない限り、2018年も物価上昇幅は拡大し、年後半には1%を上回っていくだろう。

10月の東京都区部のコア消費者物価指数も前年同月比+0.6%(9月同+0.5%)となった。

企業の価格競争の激しい東京都区部の物価の動きは全国に遅れていた。

一方、深刻な雇用不足感などにより賃金上昇は全国より強いため、実質賃金の上昇が消費の回復を促進し、それが物価の持ち直しにつながり、全国に追いついてきているようだ。

10月の東京都区部のコアコア消費者物価指数は前年同月比+0.1%(9月同0.0%)と、1月以来、再び上昇に転じた。

とうとう需要の拡大が物価を押し上げる局面に入ってきているとみられる。

図)内閣府の潜在成長率の推計

出所:内閣府、SG
出所:内閣府、SG

図)潜在成長率への寄与度

出所:内閣府、SG
出所:内閣府、SG

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司

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