シンカー:グローバルに各国中央銀行は金融政策の正常化・引締めに動き始めている。グローバルな足元の物価停滞は一時的なものという見方を強め、堅調なマクロファンダメンタルスを背景に、物価上昇圧力が強まりすぎる前に政策の正常化・引締めに動こうとしているようだ。米国では次期FRB議長の人選、欧州では来年のドイツの賃金交渉やイタリア総選挙の結果次第では政策正常化・引締めを更に加速させる必要性が出てくる可能性もある。しかし、急激な金融政策の正常化・引締めは債券市場に望まないインパクトを与える可能性がある。そのため各国中央銀行はバランスの取れた形で政策正常化・引締めを進めるだろう。ただ、中長期的には米国の景気後退や中国経済の減速などを理由に金融政策は緩和に転じる必要性が出てくるだろう。注目は各国中央銀行が、景気拡大がピークアウトするまでに、どれだけ金融政策の正常化・引締めを進められるかだろう。

SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

金融政策見通しの変更の概要

米国担当エコノミストは7月26日のFOMC前に、12月に年内あと1回の利上げ予想を維持。トランプ大統領は次期FRB議長をまだ発表していないが、「近々判断を下す」と述べている。ホワイトハウス関係者も、トランプ大統領が11月3日かそれよりも早く、次期FRB議長を発表すると示唆している。マーケットはパウエル理事が次期FRB議長に指名される可能性が高いと見ているようだ。

欧州担当エコノミストが10月26日のECBの結果を受け、次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」に変わったことを指摘。2018年のユーロ圏景気には上振れリスクがあると見込んでおり、ドイツでの賃金交渉やイタリア総選挙の行方はECBの今後の決定を大きく左右するとみられる。しかし、今後のインフレ見通しが弱いこと、月次買入れ額を300億ユーロから一気にゼロにすると余りにも大幅になることから、QEは終了の前に、月額150億ユーロで少なくとも(2018年9月から)3カ月延長されると見込んでいる。そのため、初回利上げ時期の従来予測より後の2019年6月に変更。ただ、2019年後半に米国がリセッション入りして、ユーロ圏金利のさらなる正常化を妨げるだろう。

英国担当エコノミストは来週のBOEの政策決定会合で利上げを予想。しかし、今後、英国のインフレピークアウトし、Brexitの影響などから英国経済は減速する可能性があるため、更なる利上げの可能性は低いと指摘。

米国(Fed)

FFレート(予想:12月に2017年内に後1回の利上げ):

2017年は12月にあと一回の利上げ実施し、年末までにFFレートは1.5%まで上昇すると予想。また、2018年には3回の利上げ(3月、9月、12月)を予想している。9月のFOMCでFOMC参加者のFFレート見通しの中間値は2017年、2018年ともに変わらず、依然として12月の利上げと2018年に3回の利上げの見方を変えていないことが確認された。FRB はインフレの弱さは一時的に過ぎないという自信を強く持っており、直近のコアインフレ率の回復でそれを深めたことは間違いないだろう。また、 FRB は引続き、労働市場が力強くなることで来年には賃金やインフレ率が押上げられるとみているだろう。

2019年後半から景気減速を予想しているため、FFレートのピークは2.00-2.25%(2019年上半期)と予想し、その後Fedは利下げへ動くと予想。市場予想とFOMCの予想は一致し、徐々に利上げに動くと見込まれている。

FRB議長人事(予想:11月3日までには発表?):

トランプ大統領は次期FRB議長をまだ発表していない。トランプ大統領は「次期FRB議長は2名(テーラー氏かパウエル氏)に絞られたという人が多い。だが私が本当に好ましく思っているイエレン現議長にも会った。私は3氏に注目しており、他にも何人か候補がいる。近々決断を下すだろう」と述べていた。ホワイトハウス関係者も、トランプ大統領が11月3日かそれよりも早く、次期FRB議長を発表すると示唆している。マーケットはパウエル理事が次期FRB議長に指名される可能性が高いと見ているようだ。

ユーロ圏(ECB)

金融緩和政策(予想:次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」):

10月26日のECB理事会で量的緩和政策の終了に向けて、資産買入の減額が発表された。ECBは資産買入れプログラム(APP)を、月300億ユーロに減額しながら2018年9月まで9カ月延長すると発表した。一方でフォワードガイダンスの内容は基本的には変わっていない。1つ考慮すべき点は、国債以外の買入れプログラムが足元に近い水準で継続されると「(APP全体での)月次買入れ額300億ユーロ削減」が示すより、公的部門購入プログラム(PSPP)の削減幅が大きくなることだ。またドラギ総裁は、再投資の重要性を強調すると共に、中央銀行の保有資産による継続的なインパクトを強く認識している。

次の注目点は「ECBがQEを2018年9月に終了できるのか、それとも再延長が必要になるのか」に変わった。今回の決定でECBはインフレ率が来年には目標に向かって確かな足取りを見せるかどうか、望ましい金融状況を維持しながら、評価する時間を稼ぐことが出来た。2018年のユーロ圏景気には上振れリスクがあると見込んでおり、ドイツでの賃金交渉やイタリア総選挙の行方はECBの今後の決定を大きく左右するとみられる。しかし、今後のインフレ見通しが弱いこと、月次買入れ額を300億ユーロから一気にゼロにすると余りにも大幅になることから、QEは終了の前に、月額150億ユーロで少なくとも(2018年9月から)3カ月延長されると見込んでいる。

預金ファシリティー金利・主要ファイナンス金利(予想:ファシリティー金利を2019年6月に1回の利上げへ予想変更):

ECBは緩和政策終了後、2019年6月に1回の利上げ(従来予想:2019年3月、6月に2回の利上げ)により、預金ファシリティー金利は引き上げられるだろう(6月:-0.4%→0.2%)。ユーロ圏経済が潜在成長率を上回り、ユーロ圏の需給ギャップが2018年に小幅ながらプラスへ転換することが背景にある。しかし、2019年後半に米国が景気後退局面に入ると予想しているため、更なる追加利上げを妨げるだろう。

日本(日銀)

誘導目標(予想:2017年は0%で維持、2018年後半に長期金利の誘導目標を引き上げ):

2%の物価目標にはまだ距離があり、デフレ完全脱却の動きを確かにするため、海外金利が上昇する中、国債買いオペを増額してでも、長期金利を誘導目標である0%に辛抱強く誘導し続けるだろう。長期金利の誘導目標引上げの必要条件は、展望レポートの物価のリスクバランスの中立化に加え、コアCPIの前年比が1%を超え、ドル・円が120円程度であると考える。原油価格がこれまでの想定より弱く、FEDの利上げもより緩やかで、日銀も物価見通しを引き下げ、2%の達成時期を先送りした。これらの条件が満たされ、長期金利の誘導目標が引き上げられるのは、早くても2018年後半と予想する。

マイナス金利政策(予想:2%の物価上昇を達成する2021年に解除):

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。長期国債の買入は2021年までに終了すると考える。その後、2%の物価上昇を確認し、マイナス金利政策の解除に動くと考える。

日銀人事(予想:後任は現金融緩和政策に賛同し、ハト派の人間):

2018年4月の黒田日銀総裁の後任人事は、再任か、緩和に賛同するハト派な人が任命され、2%の物価目標を含め、現行の政策が維持されるのがメインシナリオだろう。タカ派な総裁となれば、マーケットは正常化が急激に推し進められることを感じ、不安定化するリスクがある。

中国(PBOC)

銀行間金利(予想:今年中後半までは流動性供給を引き締め、足元の水準を上回る):

2017年後半に実体経済が急減速するまで、PBoCは流動性供給を厳しくする(引締める)ことで、銀行間金利を足元の水準かやや上回る程度で維持するだろう。このプロセスで、流動性供給ツールの金利も上昇する可能性がある。例えば、7日物リバースレポ金利が2.45%から2.65%に上昇する可能性がある。基準預金・貸出金利の引上げは堅調な景気モメンタムの中でCPI上昇率が3%を超えた場合に限られるため、その可能性は低いだろう。引き締め策の影響から非金融セクターの金利が徐々に上昇するだろう。

今後、シャドーバンキングのデレバレッジや住宅市場引締めにより累積されたインパクトが、今年中後半には実体経済に波及し、また、2018年初めにはCPI上昇率もベース効果によって大幅に加速するため、PBoCの緩和余地を狭めるだろう。

英国(BOE)

政策金利(予想:11月に10年ぶりの利上げを予想):

BOEは11月の政策決定会合で10年ぶりに利上げに踏み切ると予想。英国の計座時は県庁であり、インフレ率はBOEの誘導目標を上回り続けているため、利上げに踏み切る環境は整っている。しかし、今後、英国のインフレピークアウトし、Brexitの影響などから英国経済は減速する可能性があるため、更なる利上げの可能性は低いだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司

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