昨今は、出世したがらない人が増えているとよく言われます。確かにそれを裏づけるような調査結果も出ています。しかし、それは私が企業の現場で直接見聞きする傾向とはやや違っています。管理職のポスト数が限られている中で、なりたいと思ってもなれないとあきらめている人も多くいるようです。また、趣味を充実させるために仕事はほどほどにという志向性を持っている人も中にはいます。

それでもなお、やはり多くの人たちが組織の中で仕事をしていくうえで、より自由裁量の余地の大きな立場を求めています。また、人生でこれだけ多くの時間を費やしていることに対して、当然ながらやりがいを求めてもいますし、その中で成長もしたいと思っているのです。

重たい役割についている人の方が、やりがいも感じやすく、成長実感も得ているということは、数々の調査結果からも見て取れますが、調査結果を見るまでもなく、おそらく多くの方々が経験的に実感できるところではないでしょうか。

(本記事は、相原孝夫氏の著書『一流役員が実践している出世の哲学』=クロスメディア・パブリッシング(インプレス)、2017年10月21日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

【関連記事 『一流役員が実践している出世の哲学』】
・(1) 「同期が先に出世」係長止まりの人は出世をあきらめる。役員になれる人は?
・(2) 部下を育てるために係長止まりの人は「自慢話をする」が、役員になれる人は?

適度な負荷は、レベルを引き上げる糧となる

強みはなにかと聞かれたら

係長止まりの人は、「頭の良さだ」と誇る

部長になれる人は、「知識と経験だ」と言う

役員になれる人は、「打たれ強さだ」とまっさきに答える

現場の管理職の人たちに、「どんな若手を部下として欲しいですか?」と聞くと、たいへん多く聞かれるのが、「打たれ強い人」と「バイタリティのある人」です。今も昔も変わらない感もありますが、昨今はパワハラなどが声高に言われるご時世でもあり、とにかく神経を使わずに接することができる力強い部下を求める傾向が強まっているようです。「打たれ強い」という要素は、成長に大きく関わっています。

人は若いうちから完璧な仕事ができるわけはなく、現場で何度も叱咤を繰り返されながら育てられることになります。打たれ強ければ、その都度叱られ、どんどん成長します。しかし、打たれ弱い場合には、周囲は叱りづらいので成長も鈍化してしまうことになります。やはり両者を数年での実力の伸びで比べると、雲泥の差が出ることになります。難しく重要な仕事をどちらに任せるかといえば、やはり常に前者になるので、そうした機会を通してどんどんレベルアップして、出世していくことができます。

逆に、どのような若手が最も敬遠されるかといえば、それは「頭でっかち」な若手です。総じてこうしたタイプの若者に対して上司が思うことは、「頭でわかっていることと、できることとは違う」ということです。できる上司ほど、経験的にこの点を嫌というほど自覚しているので、なおさらそういう思いを強く持つものです。

さらに問題なのは、これらのタイプの若手社員は、往々にしてプライドが高く、それゆえ行動とそれに伴う失敗を恐れるという点ではないでしょうか。上司や先輩から何か指摘されたりすることに対して必要以上に過敏で、傷つきやすいのです。

こういうタイプに決定的に欠けているのは「不完全で未熟な自分」という前提です。打たれ強く、どんどん実力をつけていく若手社員は、打たれることに対してむしろウェルカムなのです。鋼が何度も打たれて頑強になっていくイメージが近いでしょうか。

若いうちからプライドが邪魔をして、もっともらしい御託を並べてしまっては、早い時点で成長がストップすることになりかねません。優秀であるがゆえですが、残念なことです。そういう人は入社時点では優秀であっても、入社時点ではそれ程でもないが泥臭く頑張れる人に数年後には追い抜かれ、どんどん引き離される結果が待っています。その点をよくわかっている企業は、その時点での優秀さよりも、打たれ強さや素直さなど、「伸びしろ」を重視して採用するのです。

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その努力は血肉になっているか

努力の目標は

係長止まりの人は、キャリアアップ

部長になれる人は、スキルアップ

役員になれる人は、実力アップ

2000年頃のITバブルと言われた時代以降、入社して2、3年目の早い段階での転職が多く見られるようになりました。その頃といえば、ちょうど世の中では、「勝ち組・負け組」というような差別的な言葉が使われ始めた頃です。若手社員の中では、なんとか負け組にならないようにという切迫感が漂い、そのような言説に急き立てられて転職をした者も多かったようです。

しかし、実力をつける以前の段階での転職には注意を要します。活躍の場があるとはいえ、逆に言えば、何から何まで自分一人でこなさなければならない状況にあるということでもあります。

転職をしないまでも、スキルアップに一生懸命な若手社員は多くいます。会社から早く帰って、資格取得や英会話の学校へ通ったり、通信教育で学んだりするわけですが、それらは必ずしも現在の仕事に関連性のあるものばかりではないようです。職務上の必要性というわけではなく、自己啓発として行っているのです。今後、他の会社でも活躍できるように、あるいはより良いキャリアを歩めるようにスキルアップに精を出しているのです。

2011年月日号の『週刊東洋経済』において、「さらば!スキルアップ教」という特集が組まれました。その中では、「スキルアップ教は、どちらかといえば会社の中で将来が嘱望されていない人たちを中心に広がった」と分析されています。また、「モーガン・マッコールという学者が800人のスーパーエグゼクティブにインタビューしたところ、仕事以外の自己啓発で偉くなった人は一人もいなかった」という調査結果が紹介されていました。

では、スーパーエグゼクティブたちは何で偉くなったのかといえば、仕事そのものなのです。仕事以外の自己啓発に精を出すのではなく、目の前の仕事に集中した結果として実力が養われ、どんどん出世しています。そのような社員の場合、そもそも仕事が忙しく、それ以外の自己啓発等に時間を割けるような状況にはありません。そして、仕事上の実力を身につけるうえで最も効果が高いのは、当然ながら仕事そのものからの学びなのです。スキルも実力の1つとも言えますが、ここで言うスキルは、自己啓発によって獲得される、仕事との関連性の薄い一般スキルを指しています。

個人としてスキルアップへ向かう場合、仕事そのものへの集中度が削がれることのないよう、また組織から距離を置く結果とならないよう注意する必要があります。もしそうなってしまえばそれは、一種の逃避行動となってしまうからです。

急いては事を仕損じる

夢に対して

係長止まりの人は、あきらめている

部長になれる人は、ストイックに自分を追い込む

役員になれる人は、おだやかに地道に努力する

10年ほど前から「最近の若者は出世欲がない」と言われています。しかしこれは本当でしょうか。

産業能率大学が毎年新入社員を対象に実施している調査では、「あなたが目標とする役職・地位は?」という質問に対し、「社長」「役員」「部長クラス」という回答を合わせると52.4%となっており、「地位には関心がない」の39.1%を大きく上回っています。男性だけで見ると、部長クラス以上は64.1%であり、関心がいのは28.2%とさらに差がいています。こうした結果を見ると、決して出世欲がいとは言えないようて゛す(「2017年度新入社員の会社生活調査」学校法人産業能率大学)。

て゛はいったい、どのような人が出世するのでしょうか。米AT&T社が行った数十年に及ぶ有名な追跡調査があります。入社した社員の能力や価値観、行動特性等をありとあらゆる方法で測定し、その人がその後どのようなキャリアをたどったかを見たものて゛す。この調査の結果、非常に面白いことがわかりました。社内で出世した人は、「出世したいという気持ちが強かった人」だたのです。能力や行動特性等々、様々な側面を測定しましたが、最も関係していた要素は、その人がどうなりたいと思っていたかという点だったのです。

能力や資質以前に、そうなりたいという意思が出世を左右していたのて゛す。少なからずいると思われる「出世意欲がい」人は、やはり出世はしないということて゛す。高いパフォーマンスを発揮して、認められようという意識が低いというわけですから、当然かもしれません。

しかし、企業の中を見ていて、出世欲を前面に出しているような、ガツガツしたタイプが順調に出世しているかと言えば、必ずしもそうではありません。「タイプA行動パターン」と言われる行動傾向があります。1950年代に、アメリカ人の医師、フリードマンらが発見し、名づけたものです。性格面では、「競争的、野心的、精力的であり、何事に対しても挑戦的で出世欲が強い、常に時間に追われている、攻撃的で敵意を抱きやすい」という特徴があります。

しかし、タイプAの人はストレスによって疾患を患う確率が高く、仕事に支障をきたす場合が多くなるようて゛す。フリードマンによると、実際のところはタイプAの人よりも、その反対の傾向を示すタイプBの方が成功しやすいということて゛す。出世欲を強く持ちながらも、目の前のことにあまり執着し過ぎないこと。そして、中長期的に実力をつけつつ、周囲の評判にも配慮しつつ、うまくやっていける人こそが、結局は出世を続けることになると言えそうです。

仕事の信頼は名刺ではつくれない

人脈づくりに

係長止まりの人は、交流会で名刺交換に励む

部長になれる人は、特に関心がない

役員になれる人は、いつのまにか人脈ができている

企業の中で華々しく活躍している人たちに話を聞いてみると、人脈というものにほとんど関心のないことがわかります。

たとえば、「ご自身に大きな影響を与えた人は?」という質問に対して、社外の人が出てくることはほとんどありません。ごく稀にあったとしても、お客様や取引先の人で、ほとんどの場合は、かつての上司や先輩など、社内の人です。また、情報収集能力などを確認するために、社外の情報源を聞くこともありますが、「社外に多様な人脈を持っている」と自分自身で認識している人も多くはありません。そもそも、そのような人たちは常に多忙を極めており、外で人脈づくりに勤しんでいるような暇がなかったということもあるでしょう。

しかし、そうした人たちに人脈らしきものがないのかといえば、必ずしもそうではないらしいのです。部下の人たちに聞いてみると、社外に多様なネットワークを持っている点をその人の強みとして挙げることも少なくないのです。結局のところ、当人たちとしては、人脈づくりをしてきたつもりはないが、いつのまにかそれらしきものが形成されていたということなのです。ある程度の立場になれば、社外とのコラボレーションの機会も増えるでしょうし、同程度に影響力を持つ立場の人との関係もできやすいのです。

一方では、人脈づくりを目的として、若いうちから異業種交流会のような場へ盛んに参加し、名刺交換に励む人たちもいます。しかし、人脈というものはそれほど簡単にできるものなのでしょうか。そうした場で名刺交換をして、多少お互いのことをしゃべって別れる。手元には名刺が残る。しかし、それが当人が期待している人脈というものになる可能性はどの程度あるのでしょうか。

企業の中で活躍し、出世している人たちに人脈について聞いてみると、「結局のところ、一緒に仕事をしてみないと人脈にはならない」ということを多く聞きます。仕事上、どれくらい信頼できる人かは、一緒に仕事をしてみなければわからないということでしょう。従って、仕事上の「ギブ・アンド・テイク」を想定した人脈を形成するうえでは、パーティーなどで名刺をたくさん集めたところで意味はないのです。そもそも、十分なギブができるような実力なり立場なりを身につけていない人が、テイクを求めることは他力本願と言えます。

心配しなくとも、一生懸命仕事に打ち込み、立派な仕事をしていけば、期待していたような人脈はいつのまにか形成されているものなのです。こうしたことから、人脈づくりにあまり関心のない人のほうがむしろ出世していたり、結果として有効な人脈が形成されていたりということが起こっているのです。

ポジションの強みを活かしきる

同期が先に出世したとき

係長止まりの人は、出世を半ばあきらめる

部長になれる人は、勝負にこだわり嫉妬する

役員になれる人は、惑わされずに実力を養う

同期が先に課長になり、自分はだいぶ遅れて課長になった。しかし課長といっても、自分は部下のいない、いわゆるスタッフ課長で、同期は部下がいる、いわゆるライン課長。このようなケースでは、どうしてもライン課長である同期に嫉妬してしまいがちかもしれません。あるいは、出世をあきらめて、やる気をなくしてしまうかもしれません。

課長級といっても、ライン課長ばかりではありません。それ以外の方がむしろ多いのが普通です。呼び方だけでも会社によって、担当課長、専門課長、専任課長、課長代理、課長補佐、課長待遇等々、様々です。ライン管理職ではなく、スタッフ管理職ということです。つまり、部下なし、権限なし、予算なしで、課長相当の処遇をされている人たちです。

ライン課長やライン部長はポジションの数しか存在しませんので、全体からすればほんの一握りであり、その何倍もの数の同世代の社員はスタッフ管理職というケースは多いものです。40代半ばを過ぎてスタッフ管理職である場合、自分の出世はここまでとあきらめて、やる気を失ってしまう人は多いようです。40代半ばともなれば、だいたいその先のキャリアは見えてくるものです。40代半ばでライン管理職になっていれば、その先もキャリアが開ける可能性は高いわけですが、その段階で無役職であったり、スタッフ管理職である場合には、その先の出世は厳しい道のりとなることが一般的には多いようです。しかし、それも人に拠ります。

仕事上、役員の方々にインタビューをする中で、これまでの転機となった経験を聞いたところ、「担当課長時代に一番大きく成長した」と述べられた方がいました。部下なし・権限なし・予算なしの三重苦の中で、どうやって価値を出していくか、自分と向き合わざるを得なかったといいます。中途半端な位置づけゆえ、人間関係にも最大限の配慮が必要だった。後輩に対しても、変に指導的なことを言うと嫌がられるし、指示・命令ではなく、協力をしてもらうこと、つまり本当の意味での巻き込みが必要であったといいます。それまでは係長というポジションに甘えていたことが強く意識されたそうです。

上司であるライン課長にもメンバーにも「頼られる存在」であるために、どういう役割をはたしていけばよいのか。その試行錯誤の中で身についた能力も多かったといいます。そうした状況を数年経験したので、その後に次長のポジションについたときには、実に仕事がしやすかったそうです。次長というポジション自体、部長と課長の間ということでは、中途半端な立ち位置と言えなくもありませんが、当人いわく、担当課長と比べればまるで人権を得たくらいの大きな違いがあったといいます。それまで四方八方に気を遣いながら進めてきた仕事も、遠慮なく推進できるようになり、それまで身につけた関係構築力や巻き込み力などを最大限発揮して、成果をあげていった。そして気がついたらライン部長に抜擢され、その先が急に開けたということでした。

いかにも中途半端な位置づけではありますが、考えようによっては、「担当課長」は恵まれた立場と言えなくもありません。体外的には、「A社で課長をしています」と言えるので世間体も保たれますし、給料もライン課長と大きく変わらず、役職手当がついているかいないか程度の差でしかありません。何よりも、組織的なしがらみに苦労することがありません。組織の業績責任もなく、部下の育成責任もなく、中間管理職にありがちな、上と下との板挟みになることもありません。そのような自由な環境の中で、自らの裁量で仕事していく中で、実力を養うチャンスとも考えられるのです。

相原孝夫 (あいはら・たかお)
人事・組織コンサルタント。株式会社 HR アドバンテージ代表取締役社長。外資系人事コンサルティングファーム、マーサージャパン株式会社代表取締役副社長を経て、 2006 年 4 月より現職。人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専 門とする。人材マネジメントの中心概念である「コンピテンシー」の概念を日本でいち 早く紹介し、その普及に力を注ぐ。主な著書に『仕事ができる人はなぜモチベーショ ンにこだわらないのか』(幻冬舎)、『チームを活性化し人材を育てる 360 度フィードバック』(日本経済新聞出版社)などがある。

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