賃貸マンションの借主が必要費(修理費など)を出し、それを大家に請求できるという規定が民法にある。2017年5月に改正が国会で可決され、この規定が大幅に改正されることになった。今後、借主と大家との関係はどうなるのだろうか。

借主の負担はどこまで? 家主の負担はどこから?

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(画像=PIXTA)

賃貸マンションを借りている場合、その物件が損傷などをしたときには、基本的にそのマンションの持ち主、すなわち大家が修理しなければならない。

賃貸マンションは大家の所有物であり、借主はあくまでもそのマンションを借りているに過ぎないからである。しかも、大家は自分の所有物で収益を上げているのだから、この点はまったく異論の余地がないところだろう。ただ、例外はある。

賃貸マンションを貸す際に、大家と借主で賃貸借契約を結ぶことになるが、このとき重要事項説明書が提示される。

この文書についての説明は、主にマンションを管理する不動産管理会社の担当者で、宅地建物取引主任者の資格を持つ人が行う。この文書には、そのマンションに住む際の注意事項が記載されていて、担当者の説明が終了し、借主が納得した上で、署名・捺印をしてもらうようになっている。

この説明書では、契約するマンションに住む際の様々な条件が記載されている。夜中に大きな音を出さないとか、ペットを飼うことができないなど、共同住宅で守らなければならない最低限必要な決まりごとが書かれている。

その他に重要なこととしては、敷金に関する特約である。契約時に、基本的に敷金を支払うことになる。通常、家賃の3、4ヵ月分であるが、この敷金は保証金という意味合いが大きい。

つまり、借主が契約を解除してその住居から退去する際の原状回復費用として、この預かった敷金を充てるのである。借主は、物件を大家に明け渡す際には、借りる前の状態に戻す義務がある。これが、原状回復義務である。

経年劣化とは? トイレの水漏れやクロスのカビは?

ただ借主が、まったく借りたままの状態に戻すことは不可能である。壁や床などは、年数が経つと自然に傷んでくるから、それを借主の責任にすることは酷である。

これを「経年劣化」というが、そこまで借主の責任で元に戻すことは、求められていない。その部分の補修代は、基本的に大家の責任となる。

ただし、借主が故意または重大な過失によって発生させた傷や汚れついては、明らかに借主の責任としている。その際の修理代として、あらかじめ大家が借主から敷金を預かっておくという仕組みである。

つまり、借主の故意または過失で部屋が傷んだ場合は、借主の責任で修繕しなければならない、という考え方である。これが、先程申し上げた例外である。

また、借主が賃貸マンションに住んでいる期間でも、修理が必要な場合が出てくる。例えば、トイレの水漏れがしているとか、壁のクロスにカビが生えてきたなどである。

その際には、基本的に不動産管理会社に連絡を行い、大家の了承を得れば、大家の金銭的負担で修理が行われる。しかし、借主の故意または重大な過失となれば、借主の金銭的負担で修繕するしかない。

賃貸物件の修理はどうすればいいのか

ところで、賃貸マンションの部屋の中で不動産管理会社や大家に連絡する暇もないトラブルが発生することがある。

例えば、水道管が突然破裂して、水が漏れ出した場合は、直ぐに借主が業者を呼んで、修理を依頼するしかない。また、部屋の玄関の壁が腐食していて危険な状態があり、不動産管理会社や大家に何度連絡しても、なかなか対応してくれない場合には、防犯の観点から早急に借主が業者に依頼して、修理せざるを得ない。

このように、不動産管理会社や大家が対応してくれない修理については、借主が修理代を負担して、後で大家に請求する方法を取ることがある。この方法は、現在の民法でも認められている。

つまり、賃貸物件において大家が負担すべき必要費(修理代など)を借主が負担した場合には、その費用償還(費用の払戻し)を借主は大家に求めることができるとされているのである。

今までの問題点と変更点

今までの民法の規定では、大家は次の2つの費用償還義務を負っていた。なお、費用償還義務とは、借主が負担した費用を大家が後で借主に支払わなければならない義務のことである。

**1. 目的物(マンションなどの部屋)の保存に必要な費用を借主が支払った場合

  1. 借主が目的物の改良のために費用を支払った場合
    ** (※ただしこの場合には、賃貸契約の終了時に目的物の価格が増加しているケースに限り、支払った金額、増加額のいずれかを後で支払う義務を負う)

賃貸マンションなどで、借主が使用する部分(部屋、ベランダ、キッチン、風呂場など)に損傷がある場合に、連絡をしても大家がいつまでも損傷部分の修繕を行わない事態が続いたとする。この場合、借主が大家に代わって修繕できなければ、借主自身に不都合が生じる。

もともと賃貸マンションの修理代は大家が負担すべきものであるから、貸主が負担した修理代を大家が後で貸主に支払うのは、当然のことである。しかし、上記で示したように、費用償還義務が生じるケースについては現在の民法では、保存に必要な費用、改良のための費用としか規定されていない。

従って、保存、改良に必要だと判断するのは、貸主の裁量に任されていたという側面もある。つまり、貸主の善意に任せる形になっていたので、現行の費用償還義務では、大家に著しく不利な規定になっていたとも言える。

そこで改正民法では、貸主が自ら修繕できるケースを以下の2つに限定している。「借主が大家に、修繕が必要である旨の通知、または大家がその旨を知っていたにもかかわらず、大家が相当の期間内に必要な修繕をしない場合」と「急迫の事情がある場合」である。

変更後のポイント(1) 大家への通知が必須に

今回の改正で特徴となるのは、借主から大家への通知が必須となる点である。現在の民法にこの規定がないことの方が、むしろ驚きである。今までは、借主の判断で修理が行われ、後でその修理代が借主から大家にそのまま請求されていたということである。

つまり、大家には、借主の善意に委ねる形で必要費の償還義務があったということになる。消費者保護、言い換えれば借主保護の観点からは、妥当な規定かもしれない。しかし、物件の所有者(大家)の知らない所で、借主がその物件を修理する事態は、決して大家にとって好ましい状態ではない。

そのような状態を打開するために、今回の改正で借主から大家への通知が規定されていたのである。ただ、この規定にも懸念材料がないわけではない。

それは通知の方法については、特に規定されていない点である。通常、人に何かを通知する、伝える手段としては、電話、メール、口頭、郵便などが考えられる。この中で、借主と大家という関係から、電話、口頭、郵便の3つの方法が考えられる。

例えば、電話で伝えた場合に、どの部分をどのように修繕してほしいのか、的確に伝わらない可能性が高い。口頭であれば、大家のもとに直接赴いて、写真などを示しながら、説明できる可能性がある。郵便で通知する場合も同じである。

ただ、いずれの方法で通知されても、大家としては直接部屋に行って、借主が修繕の必要性を訴える箇所を確認する必要が出てくる。

一般的には、借主と大家との間には不動産管理会社がいて、多くの場合、借主と管理会社との間でやりとりを行っている。修繕の件も同じであるが、管理会社は借主から修繕の要請があったときには、管理会社から大家に速やかに連絡が行われることが求められる。

変更後のポイント(2) 修理すべき箇所の存在を大家が知っているかどうか

今回の改正での2つ目のポイントは、物件に修理すべき箇所があることを大家が知っているかという点である。

これは先程説明した、借主から大家への通知以外の方法で、大家の耳に届いているかということである。例えば、借主が大家に直接知らせなくても、管理会社経由で大家に通知を行い、大家が知ることとなった場合などが考えられる。

ただ、大家が知っているか否かをどうやって確認するかという問題が出てくる。借主としては、管理会社に伝えたのだから、当然大家の耳に入るだろうと思うはずである。しかし、管理会社の担当者が伝え忘れるという可能性もゼロではない。

もしそうなった場合、借主が相当期間待ち、大家が修繕をしてくれないと判断すれば、借主自ら修繕を行うことになる。そして、その修理代を大家に請求することになる。大家としては、この事態はまさに寝耳に水であるはずだ。

改正民法では、借主が大家に通知しなくても、大家が修理の必要性を知っていることとする要件を設けているが、これは明らかに借主目線の規定である。このような点を考えれば、今後大家と管理会社との密な連絡が求められてくる。

変更後のポイント(3) 急ぐ理由があるかどうか

3つ目のポイントは、借主自身が修繕を行うことに急迫の事情があるかという点である。

急迫の事情とは、まさに差し迫った事態のことで、大家や管理会社に相談し、判断を仰ぐ暇がない状態を示している。例えば、水道管が破損し、水漏れがひどく、一刻の猶予も許さない状態とか、鍵が破損して放置すると盗難などの恐れがあり、早急に修理しなければならないなどの事態が考えられる。

しかし、これも先程の2つ目のポイントと同じく、借主目線の規定である。急迫の事情というのは、あくまでも借主個人の判断であり、大家は事後承諾するということになる。

しかも、修理が終わった後に、大家が借主から報告、事情説明を受けることになるが、この点も借主主導で行われるため、大家は貸主の説明を基本的に信じるしかない。本当に急迫の状態だったか、修繕箇所や内容、程度、金額によっては、借主と大家との間で、修理後に紛糾する可能性もある。

これは、今まで説明した3つのポイント全てに言えることだが、契約の際に借主に対して、賃貸借契約を結ぶ際に、契約書や重要事項証明書で、今まで以上に修繕についての規定を設けておく必要がある。

今まで曖昧だった賃貸マンションなどの修理ついて、借主、大家方の立場を明確にする規定に改正されることは望ましいことだ。しかし、今以上に契約時の確認が必要となってくる。(井上通夫、行政書士)