(本記事は、小嶌大介氏の著書『だから、失敗する!不動産投資【実録ウラ話】』ぱる出版、2018年9月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

新築アパートは「リスクが少ない」投資なのか

だから、失敗する!不動産投資【実録ウラ話】
(画像=shigemi okano/Shutterstock.com)

ここでは新築アパートを取り上げたいと思います。

正直いって新築アパートは僕にとって未知の世界です。うまくできる手ごたえなんて、まったくないのですが、世間的には新築アパートが流行っています。

その理由は、融資が引き締まってきた中でも、比較的に長期融資が出やすいということ。

また新築アパートは競争力があり入居付けが難しくないということ。

さらに当たり前ではありますが、新築はあらゆるものが新品ですから、早々には壊れません。

つまり当分は大きな修繕費用がかからないですし、建物の躯体や設備なんかも保証期間があるので安心感があるというわけです。

くわえて言えば、何年か持って売却を検討したときも、築浅物件であれば「買いたい!」という人も多いです。

新築なら10年所有したところで築10年ですから、僕のボロアパートを売却するときよりは、よっぽど売りやすいでしょう。

その代わり利回りはたいして出ませんし、よっぽど市況が良くならなければ大きな売却益が出る可能性も少ないです。

つまり、ドカンと大きく儲かる要素は少ないですが、大きく失敗する要素も少ない……いわゆるローリスク・ローリターンの投資というわけです。

こんな安全そうな投資にどんな失敗があるのでしょうか?

【事例】竣工時に市況が激変して想定家賃が下落!!丸亀晴明さん(仮名)

神奈川県在住の丸亀さんは10年目のキャリアを迎える40代の事業家大家さんです。サラリーマンは卒業済みですが、自身の事業と大家業の2本柱があります。

「自分自身の人生における居場所をつくりたくてサラリーマンを辞めて、ライフワークに多くの時間を割く環境を整備することを前提に不動産投資をスタートしました。退職といっても仕事をしないわけではなくて、ライフワークに邁進するために大家業をやりたかったのです」

と言います。

不動産投資を選んだ理由は金融機関出身で、不動産に深くかかわっていて馴染みがあったから。

また経営コンサルタントとして事業経営についても知っていたからさらに人事の専門家でもあったので、遠隔地方に満室チームを育てて運営していくためのノウハウを備えていたからだそうです。

そうして現在、10棟70室+戸建て1戸を所有、家賃収入は満室想定で4300万円程度と、充分に実力も経験値もあります。

これまでは中古再生物件を中心に物件種別にこだわらず、順調に高利回り物件を買い進めていたそうですが、今回の新築は土地から仕込んでいます。

「もともと投資基準に合えばどこでも買うわけでなく北海道、神奈川県、香川県などエリアはバラバラですが、主に経営コンサルティングで構築できた人間関係を基準に買っていました。今回は縁のある地域の駅徒歩3分に新築用地を割安で購入できたことがきっかけです」

土地を購入したのは2016年、そこから既存の建物(RC造)を解体して、木造のアパートを新築することにしました。

「駅から近いため、大手企業の転勤族の社宅としてのニーズがある、と仲介店さんのヒアリングから情報を得たため、そこをメインターゲットとしました。単身赴任が多いということで、グレードの高い単身向けのプランを考案しました。そうして2017年に建築、2018年2月に引き渡しとなりました。しかし、繁忙期に間に合ったにもかかわらず、3月末で1室しか埋まらないのです。これはおかしいと気づきました。結局のところ、賃料設定と広告料の見誤りがあったのです」

と丸亀さん。

どういうことかといえば、計画をしていた2年前と実際の募集時では需給バランスに変化が起こっていたのです。

近隣にメーカーアパートが建ち並んでおり、競争が激化して家賃が下落、広告料も上がっていたということ。

そうした状況を関東に住む、丸亀さんが把握できていなかったのです。

状況を把握したときは繁忙期が終わるタイミングで時すでにおそし。

広告料も当初1ヵ月と聞いていたのですが、某アパートメーカーは3ヵ月もつけていたそうです。

・丸亀さんの新築アパートの概要
香川県M駅徒歩3分 木造アパート 2億2000万円
部屋数 2棟20室
家賃 月128万円(満室想定)
ローン返済 月80万円 利回り6.9%

ピンチに立たされた丸亀さんは、すみやかにヒアリングを行い、社宅需要のほかに、地元アッパー層をとりこめる賃料に下げたところ4月中旬~下旬に5室が入居決定。

7月末現在の空室ははあと2室となりました。

「家賃の見直しから周知する期間を考えると10日程度で5室が決まっているので、この調子でいけば満室は難しくないでしょう。ただし損失は少なくありません。家賃相場が1万円下がり20室12ヵ月で240万円。10年間で考えれば通算2400万円の収入減です。また客付が3カ月遅れて300万円の機会ロス。広告料の追加で100万円。また大手アパートメーカーに合わせて、無料インターネットを追加をしたのでさらに100万円かかり、トータルで約3000万円の損失です」

結構な金額ではありますが、彼は地方の高利回りアパートを複数満室に近い状態で運営しているので、この失敗で倒れることはないでしょう。

ここでの失敗の定義は「心が折れるとき」としましたが、丸亀さんは「失敗とは、短期的にうまくいかなかったこと」と言います。

たしかに短期的にうまくいかなくてもトータルでプラスに持っていって、長く事業が続くのであれば、それは失敗ではありません。

丸亀さんはある程度の投資規模があり経験もあります。

状況を冷静に捉えられているし、次の打つ手もすでに答えを持っていますが、もし人が違えば、致命傷になったわけです。

丸亀さんのほかの物件の話をすれば、任売(任意売却・ローン返済できなくなった場合、売却後も債務が残ってしまう不動産を金融機関の合意を得て売却する方法)で購入した再生物件を売却する予定で、売却益が約1000万円出るため、今期500万円の新築の損を消すことができます。

そう考えると、上手く行くことも、そうでないことも起こりうる、それが事業です。

施工中に大手メーカーがたくさん物件を供給したことで近隣の家賃相場が崩れるというのは、日本中どこでもありそうな出来事です。

新築は完成するまでに時を要しますから、僕からするとやはり不確定要素が怖いようにも感じます。

やはりリスクをとるときに、飲み込めるかどうかで自分の受け入れ態勢を整えておくしかないのではないでしょうか。

【事例】客付が厳しく新築なのに半年以上も空室が続く 鹿野木村さん(仮名)

大阪在住で40代半ばの鹿野さんはプロです。どういうことかといえば、ビル管理関係の不動産屋さんに勤めているのです。

藤山勇司さんの『サラリーマンでも「大家さん」になれる46の秘訣』(実業之日本社)を読んで、競売(ローン返済が困難となった債務者が担保にした不動産などを、裁判所の管理下で強制的に売却する手続き)で10年ほど前に不動産投資をスタートさせています。

そして、これまでに区分マンションや戸建てを中心に売買の経験があります。

1棟物件としては、山口県で昭和50年築の木造アパート(16室)をリフォームしています。

本当は大阪で不動産投資をやりたかったのですが、これといった物件がなかったようです。

その後、2016年に大阪府O市内で新築アパートを買いました。

その物件を買うときに民泊をやろうと考えて、自分で運営をしようといろいろ調べていました。そうこうしているうちに、すでに民泊は飽和状態になってしまったのです。

「今更どうなんだろうというタイミングだったので、普通のアパートとして貸したんです。すると水商売中心でマナーが悪かったり、夜逃げをしたりと入居者属性がいまいちです。そして部屋が2つ空いた状態でなかなか埋まりません。なぜ新築なのに入居者属性が悪く部屋が埋まらないのか。それは、主要駅から徒歩圏内で立地は決して悪くないにもかかわらず、いわゆる『治安があまり良いとはいえない地域』で客付が難しい場所だったのです。それだけ土地は安いのですが、どうしたものかと悩んでました」

と鹿野さん。半年くらい埋まらず、お荷物物件になってきていました。

・鹿野さんの新築アパートの概要
大阪府O市 T駅徒歩10分 木造アパート 6980万円
部屋数 6室
家賃 月47.4万円(当初)
ローン返済 月23万円 利回り8.14%→利回り9.18%

この地域の家賃相場は安いですし、広告料は2ヵ月以上かかるし思った以上にまわらない……そんな感じで当てが外れた鹿野さん。

鹿野さんの窮状を聞いた僕が、民泊の専門家である新山彰二さんにつなげて、相談に乗ってもらうことにしました。

新山さんは生まれも育ちも北海道なのに、大阪で特区民泊のコンサルタントをしています。

不動産投資の自己資金をつくるため物販の副業をはじめたところ、そちらで成功して会社をリタイヤした異色の経歴があります。

「民泊というのはインターネットでモノを売ることによく似ており、物件力ではなくて『魅せ方』がポイントです。そのため不動産投資家だけでなく、物販からの参入も多いのです。自分はどちらも知っていることが強みです」

と新山さん。

転貸民泊で件数を増やしていき、今では特区民泊を中心に合法民泊を行ったり、合法民泊をはじめるためのサポートをしています。

『特区民泊で成功する!民泊のはじめ方』(秀和システム)という初心者にもわかりやすい書籍も出版しています。

「鹿野さんとお会いしたのは昨年の11月です。物件の住所を聞くと、民泊ができそうなエリアで間取りも民泊向きです。そこで現地を確認して、調査をしたところ特区民泊が可能なことがわかりました。こうなると消防設備の工事をどこまでやるのかがポイントです。今後を考えて、全部の部屋をやるのか、空室だけなのか、それでコストが変わります」

と新山さん。鹿野さんは全室工事を行う決断をしました。

「だいたい100万円くらいかかりました。相談をした1ヵ月後、12月には工事も終わって、翌1月には1室埋まりました。今は満室です」

と鹿野さん。家賃は部屋によって若干違うようですが、一例をあげると7万5000円→10万8000円と、すごい上がり方です。

「正直、ここまで家賃が上がるのは珍しいです。というのも1LDK41㎡という民泊に最適の間取りだったんです。これが25㎡~30㎡だとそこまで上げられません」

と、新山さん。

なんでも普通賃貸の家賃と、民泊にしたときの売上にギャップがあるほど、民泊に向いている物件といいます。

「私が物件を買ったエリアは、普通の人からすると魅力がなく、入居者属性はいまいちですが、それが外国人旅行客からすると観光の利便性が非常に良い立地だそうです。その立地と物件タイプがちょうど特区民泊に最適だったようで本当にラッキーでした」

と、心折れかけていた鹿野さんも喜んでいます。

家賃が大きく上がり、利回りも8.14%から9.18%にアップしました。これだけ付加価値のついた物件であれば、何年か所有した後に売却することも容易でしょう。

ここで補足をすれば特区民泊の届出というのは、そこまで簡単ではありません。立地の条件をクリアすること、さらに消防設備工事が必要です。

そのほか事前に住民説明会を開く必要があります。

鹿野さんはスピードをもって動き、その結果も早く出ましたが、それは彼の決断力と新山さんというプロのサポートがついたことが大きかったと思います。

一度は失敗をして心折れたのですが、その後に仲間の協力を得て復活したケースです。

【事例】隣地の住民に悩まされシコッた新築アパート 喪倉多々希さん(仮名)

新築アパートは40代ばかりが続きますが、喪倉さんも40代です。

東京在住でスマホのアプリ会社の役員をしています。ゲームアプリを徹夜でつくって、その息抜きでゲームするような根っからのゲーム好きです。

都内中心に新築投資を進めており、これまで数棟を手掛けています。

すでに売却済みの物件もあり、現在は港区にある重量鉄骨造マンション、それから中野区に土地だけ仕込んであります。

・喪倉さんの物件一覧
(1)東京都港区 重量鉄骨造マンション 土地+建物 8600万円 利回り7.9%
(2)東京都中野区 木造戸建て 土地3280万円 新築用地 シコり中

つい最近、竣工したのはJR山手線の駅から徒歩圏の重量鉄骨マンションです。

工期が伸びて今年の春の繁忙期を逃したものの、完成してすぐに満室となりました。

「今回は初めて重鉄を建てたのですが、建物の形状から鉄骨量が増えて建設費は1500万円もアップしてしまいました。これならRCにすればよかったと後悔しました。この土地は借地権で4年前から自宅にしようと仕込んでいたのですが、『近所にスーパーがない!』と奥さんからNGが出たので投資物件を建てることにしたのです」

と、喪倉さん。元々のプランで狭小でつくると利回り9.3%ですが、場所がいいので長期保有しようと思い、欲張らないプランにしたら利回り7.9%となったそうです。

そんなやり手の喪倉さんも、不動産投資は失敗からスタートしました。

「はじめようとした動機は将来の不安からです。ゲームづくりは楽しいけれど、ソフト屋は2年先が見えません。それに比べて不動産投資は収益が安定しています。人口が減るといっても、すぐに人がまったくいなくなることはないでしょうし」

そう思って2010年に東京都中野区に再建築不可の二世帯住宅を購入しました。再建築不可といえば僕にもお馴染みですが、利回り9.2%で買ってしまったのです。

中野区は悪くはない場所と聞きますが、再建築できないと考えると低利回りです。僕なら最低20%は欲しいところです。

また喪倉さんがスゴイのは、この再建築不可物件に融資を引いていることです。

そもそも再建築不可を評価する金融機関は少ないですし、タイミング的にリーマンショック後ですから、本来であれば融資は付けにくい時期です。

さすが経営者です。

とはいえ、その内容は過酷なものでした。融資期間が10年で返済比率が96%だったそうです。

「とにかく手元にお金が残らなかったです。キャッシュフローは月々2000円で、年間の固定資産税2万円を払うとほとんど残らないのです」

そんな儲からない不動産投資をはじめていたにもかかわらず、2014年に都内で新築投資を行っている先輩大家さんに出会って以来、土地からプランニングする新築投資を行っています。

たくましいですね!

そして問題のシコりアパート用地もまた中野区にあります。

「今年の1月に新宿から地下鉄で2つ目にある某駅から徒歩13分にある旗竿地を購入しました。旗竿部分に隣地が越境しており、建て直しができません。そのため周辺相場が坪200万円前後の地域で坪70万円弱で買えています。一応、隣地購入の承認はあるのですが前に進みません」

新築用地に建つ戸建ては廃屋です。

越境しているお隣さんも窓が割れて壁が崩れているため廃屋に見えます。

しかし、しっかりと人が住んでいて立ち退いてくれないという困った話なのです。

「お隣のお宅は築50年以上経過しています。住んでいるのは老夫婦2人と40代未婚のお嬢様2人。50年間以上他人の敷地の上に住んでいる大変肝の太いご家族です。ご主人は売りたい、奥さんとお嬢さんは売りたくない……のせめぎ合いです」

こんなシコッた状況ですでに9ヵ月が経過。

とにかく円満に売却をしてもらうべく、良好な関係を築くためのコミュニケーションは欠かせないそうです。

「機嫌よく挨拶したりプレゼントしたり、完全に下僕のように尽くしています。今は『土地を売るのに引っ越し先を探して欲しい』と言われているので、不動産仲介のごとく手頃な転居先(戸建て)のマイソク(物件のチラシ)を週二回郵送してます」

と喪倉さん。なかなか前途多難です。

しかし、彼もまた失敗を失敗とも思っていないツワモノです。今回紹介したシコッたアパート(現在、廃屋)もきっと何とかなるでしょう。

喪倉さんは淡々とトライ&エラーを繰り返しています。

根っからモノづくりが好きなタイプなのでしょう。

つくるモノは違いますが、僕と同じ匂いを感じます。

新築への知識が深く、難しい不動産投資を行っているにもかかわらず、上からものをいう感じもありません。

おそらく日進月歩な環境で生き抜いてる彼からすれば、不動産投資の世界はゆっくりしているのではないでしょうか。

当たり前のように失敗すれば、成功もあるというのを繰り返し、そこに僕は学びがあると考えます。

また、やはり実業をしている人だけあって着実に融資をつけています。

いわゆる高属性サラリーマンのように「メガバンクで金利0.5%で引きました!」ということはないのですが、皆が使っていないような地場の金融機関を味方につけています。

1棟目の返済比率96%はシャレになりませんが、その辺は自営業者らしく多少粗くても前進する……確実に稼ぎ出せる人の考え方です。

そんな喪倉さんがどうして僕の仲間になってくれたのかといえば、新築用地を仕込むと大抵その上には廃屋が建っているそうです。廃屋をつぶして新築を建てる……いわば輪廻です。

そこで廃屋にもっと強くなるために、僕に興味を持ってくれたそうです。

だから、失敗する!不動産投資【実録ウラ話】
小嶌大介(こじま・だいすけ)
通称、デザイナー大家。芸術系大学を卒業後、マス広告業界で約10年間グラフィックデザイナーとして勤務。2010年、脱サラを目指し手持ち50万円から不動産投資に挑戦、デザイナー独自の目線と切り口で築古物件のプランディングし次々と高利回り物件に再生、蘇生するリノベデザイナーとして業界で一目置かれるカリスマ。所有物件15棟120室。平均利回り30%。著書に『50万円の元手を月収50万円に変える不動産投資法』『廃屋から始める不動産投資』(ぱる出版)がある。
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