(本記事は、西田一見氏の著書『ビジネスNo.1理論』現代書林、2014年7月15日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
マイナスの言葉や動作・表情は、瞬時に全身に伝わってしまう
言葉を発する際、人間の脳ではどんなことが起きているのでしょうか?そのメカニズムを少し説明しておきます。
脳は「知性脳―感情脳―反射脳」という3層構造になっています。
自分が吐いた言葉は、「入力情報」となって、脳内で伝達されます。
その情報は、まず「知性脳」の中で移動を開始します。言語中枢のある左脳から、脳梁と呼ばれる部分を通り、右脳でイメージを発生させます。このイメージの素材になるのが、過去の記憶データです。
右脳で発生したイメージは、次に「感情脳」の扁桃核に伝達されます。そして、このイメージをもとに、裁判官である扁桃核が「快・不快」の判断をしているわけです。
「快・不快」の判断が今度は「反射脳」に伝えられ、3つの脳が瞬時に身体に影響を及ぼすのです。
これを、具体的な例を挙げて見ていきましょう。
もしもあなたが「もうダメだ」というマイナス言葉を発したとします。すると、あなたが過去に「もうダメだ」という言葉を発していたときの記憶データを検索します。そして、そのときのマイナスのイメージ・感情を瞬時に引き出し、イメージを発生させます。
そのイメージを受け取った扁桃核は「思いっきり不快」と判断し、「反射脳」に伝えます。それを受け取った「反射脳」が、「もう無理って感じの反応をしようぜ」と身体中に伝えるわけです。
一気に身体が疲れてくる、頭が回らなくなってくる、寒気がする、吐き気がする、足が動かなくなる……その状況に最適な「無理、絶対無理」という身体ができ上がってしまうのです。身体が明確に「無理」と告げているのに、成功するはずはありませんよね。
ちなみにマイナス言葉が身体に影響するまでの時間は、何日、何年といった長いスパンではありません。ほんのコンマ何秒の世界です。
マラソンなど、エンデュランス(耐久性)系のスポーツをしている人などは、とくにわかるでしょう。苦しくなってきたときに「もうダメだ」と弱音を吐いた瞬間、足がたちまち動かなくなる……そんな体験をしたことがあるはずです。
言葉という「出力」が、どれほど身体に影響を与えるか、つまり成否のカギを握っているかはよくおわかりいただけたと思います。
では、動作をしたり、表情をつくる際、人間の脳ではどんなことが起きているのでしょうか?
言葉を発する際とは少し違うのですが、身体に与える影響は言葉と同じくとても大きいことをぜひ頭に入れておいてください。
自分の動作や表情は、「知性脳」を経由せずに、ダイレクトに「感情脳」に伝達されます。
具体的には、動作は「感情脳」の中の小脳という部分に届きます。ここには「あ、そういう動作をするときは『快』ですよ。逆にこういう動作をするときは『不快』ですよ」といった形で、過去の動作データが整理・蓄積されています。
そして、表情は「感情脳」の中の大脳基底核という部分に届きます。ここには「そういう表情をするときは『快』ですよ。そういう表情をするときは『不快』ですよ」といった形で、過去の動作データが整理・蓄積されているわけです。
さらに、小脳からの動作情報と大脳基底核からの表情情報は、すぐ近くにある扁桃核に伝達されるのです。
ここでも具体的な例を挙げて見てみましょう。もしもあなたが「もうダメだ」と首をうなだれ、眉間にしわを寄せたマイナス動作・マイナス表情を行ったとします。すると、小脳と大脳基底核が、あなたが過去に「もうダメだ」という動作・表情をしていたときの記憶データを検索し、扁桃核に届けます。
そのイメージを受け取った扁桃核は「思いっきり不快」と判断し、「反射脳」に伝えます。それを受け取った「反射脳」が、「もっともっと無理って感じの反応をしようぜ」と身体中に伝えるわけです。そして「無理、絶対無理」という身体が一気にでき上がってしまうのです。
プラスの言葉や動作・表情を使って、3秒でマイナス感情から抜け出す
マイナスの状況が起これば、人はマイナスの感情になります。苦しいことがあれば、苦しいと感じます。そんな状況でも常にプラスの感情でいるためには、扁桃核のスイッチをいつでも「快」にすることがカギになると説明してきました。
では、いよいよ本章の核心に迫ります。
いったいどうすれば扁桃核のスイッチを常に「快」にできるのでしょうか?どうすれば、苦しいことがあっても、楽しいと感じられるようになるのでしょうか?
「プラス言葉、プラス動作・表情」を使うのです。
では、「今日からマイナス言葉もマイナス動作・表情も一切禁止」として実行することは可能でしょうか?これは非常に難しいです。私たち人間は、普通に毎日を過ごしていれば自然とマイナス思考になってしまう生き物です。
今までマイナス言葉ばかり口にしてきた人がいきなり一切禁止を守ろうとすると、大きなストレスがたまってしまい、むしろ逆効果なのです。
では、どうするか?
まず、1つめは「マイナス言葉の言い換え」「マイナス動作・表情のやり換え」を行うことです。
今まであなたがよく口にしてきたマイナス言葉をピックアップしてみます。これをすべてプラス言葉に言い換えてみるのです。
例えば「残業」という言葉を「成長時間」と名づけてみます。そして、「残業がつらい」というマイナス言葉を「たくさんの成長時間があってうれしい」などと言い換えてみます。
同じように、あなたがよく行ってきたマイナス動作・表情をピックアップしてみます。例えば、新しい仕事を言い渡された際、「はい」と言った後に必ず「はあ」とため息をついていたとします。
それならば、「はい」と言った後、両拳を天に突き上げるポーズを取るといった具合です。
2つめは、この「マイナス言葉の言い換え」「マイナス動作・表情のやり換え」を3秒で行うクセをつけることです。
マイナス言葉をつい口にしてしまったり、マイナス動作・表情をしてしまうことはあります。例えば、「いったいいつになったら目標に到達するんだろう」と口にし、がっくりと肩を落として眉間にしわを寄せてしまった。
それをやってしまうのは仕方のないことです。
けれども、そこで瞬時に切り換えます。例えば、「目標までの道のりは長いほうがいい。そのほうがストーリー性があっていい」と言い直して、笑顔ではるか先を指さす──。
そういったことを瞬時に行って、脳への「入力」を即座に書き換えていくのです。
この瞬時の書き換えのことを、私たちは「3秒ルール」と呼んでいます。
すると、脳は後に口にしたこと、後に行った動作や表情を信じるので、扁桃核は「快」と判断してくれます。
「マイナス言葉の言い換え」「マイナス動作・表情のやり換え」を常に3秒以内に行えるようになれば、どんな状況でも扁桃核のスイッチをすぐに「快」にし、プラス感情をキープできます。